あのお肩(車)のお祓いに行ってきた。
変にこだわりのある(ように僕には見える)両親だから*1、自宅から車1時間以上の道のりを要する神社であってもお祓いはそこ!と家族間では定められている。
もちろん1時間運転することも、気温三十五度を観測した日に外出することもいまさら苦でもなんでもなく(というか楽しい!)、神社周辺の環境だってとてもすきだ。……問題があるとすれば、道中および目的地周辺の道が悉く、せまい。
去年のちょうど今頃、今日とは違い何の用事もない中、一人弥彦に出かけたことがあった。電車旅、といっても駅からは歩行者になるしかなく、温泉街を抜けて神社へ向かう通りを躊躇いなく飛ばしていく車に対し、マスクで隠れるのをいいことに文句を呟いたりしてみた。そういうときは大概ドライバーとて「どけよ歩行者!真ん中歩いてんじゃねえ!」みたいに思っているものである。歩み寄りの心大事。
しかし神社の門前に温泉宿とお土産屋が立ち並ぶ風景は好きだけど、歩行者を回避すれば対向車と接触するのでは停車以外に方法がない。三人くらいが横ならびになって歩く図は遠慮いただきたいのだが、ともあれなんとか無事故でお祓いに辿り着くことができた。神の御加護を受けに行く途中で地獄送りになる、というのでは悲しいのだ。
同乗した母がついでに弥彦の御朱印をきっちり帳面の1枚目に回収し(絶対そっちが本命である。最近は神社めぐりと森林浴や山道ドライブに夢中で、すっかりアクティブになったのでなんかうれしい。)、弥彦駅とは反対方向に車を出発させた。
道中にヤギがいた。
母と姉とよく『トトロ』でメイの前に立ち塞がる(?)ヤギの声真似をして遊んでいるが、実はホンモノを見た機会は果たしてあったろうか……?と探らなくてはいけない程度しか、彼等との触れ合いはない。しかしトウモロコシの香りを嗅ぎつけて、眼前に姿を現すことはしてくれなかった。
「だめだよ!これおかあさんにあげるもん!」
「メエエエ」
ちゃんと台詞だって準備していたのに残念なことである。うわああああん、ヤギさんのばかあ。メエエエエ。
この後は母から「海沿いでも走ってみる?」と提案されて、シーサイドラインを少しだけ走った。
ここで言う「走ってみる?」とはつまり「(海が見たいからシーサイドラインへ)行ってくれ」と同義である。これには別な欲求以外での拒否の意思は通用しないのだ、ということは二十四年も息子をやっていれば流石に分かる。角田山を横に見ながら402号線へ差し掛かり、寺泊方面へ折れて木々の間をすり抜け、ブレーキを踏みまくりながらカーブを降りていくと、右手に海が見えてくる。と、後部座席で魚(のぬいぐるみ)と遊んでいた母が一言。
「興味あったら駐車場で停めてくれていいよ」
返事は「はい」である。……興味はあった、僕とて海が好きだ、好きだぞ。加えて言うなら、同乗させている相棒にも、懐かしいであろう海を見せてやりたかった*2。
というわけで途中の駐車スペースのようなところで降りて、浜の近くまで歩いてみることにした。気温が三十五前後を記録しても、浜風にあたれば幾分涼しく感じるものだ。もっともこの日は海水浴客がいっぱいいるおかげで「やっぱり今は夏なんだな」と思わざるを得なかった。それはそうである。
まあ何故停めたのが正解だったかというと、父とドライブに出かけても停車して海に降りようなんていう発想にならない!つまらん!と愚痴られていたからである。
なんでも他は、コンビニで休憩がてら飲み物の補充をして車に戻ったが父は店内で雑誌コーナーを眺めていたとか、ハンドルをゆすったり急ブレーキや急車線変更が多すぎるとか。……もっとも父の運転に関しては、高速道路で車線をはみ出すことやスピードの出すぎ、急ハンドルの連続で僕も何度も酔ってきたから激しく同意である。乗り物酔いはあまりしないタイプだと自負してきたが、父の車だけは酔わずには乗れない。
しかしひとたび他の家族間で父の話、となると大抵は(面白おかしそうに)愚痴を言うのが流れである。姉はともかく、時にヒートアップしてしまう母に関してはヒヤヒヤしてしまうが……。むしろドライブの土産話が毎度のように愚痴と受け流す父、という程度が三十年以上夫婦たるコツ、だったりするんだろうか。ううむ、人間とはつくづく難しい。
この日はシーサイドラインを離れて山道を栄へ抜け、多少の遠回りながら116号経由で帰宅……するはずが、事故で迂回を強いられて農道で迷子になり、終始一貫して40~50キロ規制の細い道を歩行者や自転車、障害物をうまくすり抜けながら走行するコースとなった。
間瀬海水浴場から栄へ抜ける途中はこれぞ山道!四駆とはいえ力強くアクセルを踏み、かと思えば急降下するものだからローギア+ブレーキでなんとかゆっくりと下り、左の側溝と右の対向車に注意しながらハンドルを丁寧に、且つ懸命に動かした。運転は好き、とは言っても、車を持ってせいぜい半年。まだ山岳地域では飛ばせない初心者に、後部座席から一言。
「一生懸命ハンドルを握ってると、手垢がつきそうだね」
「そうね」
「良いわ」
いや悪いわ。何しろ少しでもハンドルを揺すろうものなら側溝に落ちるのだ。しかしおそらくは神の御加護で、狭い道も安全に通り抜けることができた。いつも助手席でちょこんと座っているだけの魚も、今日は遊んでもらって嬉しかったろう。飛び跳ねてビーズが揺れる音が、後ろからよく聞こえてきた。
*1:僕にとっては、元日に初詣する至上主義なのも、お祓いをする神社を決めているのも、盆にお墓参りや親戚を迎えることもすべて「こだわり」に映る。変えて差支えがあるようには思えないが……。
*2:千葉ロッテマリーンズのマスコット「謎の魚(第一形態)」のお手玉サイズのぬいぐるみ。