時計の針が一二時三九分を指していた。秒針が刻まれる音がせず、時間を忘れていたようである。
いちおう部屋の掛け時計*1は普段目にしているつもりだし、カチ、カチという音がわりと響くほうなこともあってか流石に「ああ、壊れたのだな」ということはわかった。まあ現実逃避する意味合いで放置しておいてもよかったのだが、出勤・休日を問わず起床時の絶望感が半端じゃなくなりそうだ。直そう。
……そう決意して六日くらい経過した。ええ、ズボラでいい加減です、どうもおはようございます。
何を今更、一昨日は帰宅後深夜三時くらいまでリビングに立ち尽くし(←?)、そのあと歯を磨かずに寝落ちてしまったのだ。入浴してストレッチをして食事をして、とやっていると日付を跨いでいるのは確かにバグなのだが、一時間半くらい余計な時間を過ごしているのは否定しない。よくぞ翌日起きれたな。
そして久々の休日*2となった今日、目覚めたら枕に足を向けて寝ていた。明け方に一回起きて、暑いと思って窓を開けて、そこからどうしたのだ。
……次に気が付いたら、どこかの小規模ではあるが綺麗すぎる建物の中にいて、僕はスーツをバチバチに決めていて、係員に連れていかれるままに部屋に通される。と、広めの宴会場に何故か一同もスーツ、しかし白い布と中央のキャンドルで飾られた丸テーブルにはそれぞれビールと懐石料理がおかれていて、奥の巨大スクリーンの手前には長テーブルに巨大な花束、そして椅子が隣り合って二つ。
「本日は本当におめでとうございました」
……ようやく理解した。どうやらこれは披露宴らしい。そして僕は来賓どころか新郎である。言われるがまま&場の空気に無理矢理迎合し、見守る視線を受けながら着席する順応性、我ながら褒め称えたい。
見合いもしなければ、そういう提案をした覚えも、そうなるに至る時間の共有もした覚えもない。こういうところに自分と隣り合って座る誰かと、出会った覚えはない。……質の悪いことに、係員から「お相手のご家族様もいらしております」とか案内される。確かに見覚えのない壮年の人々が沢山いらっしゃる。うう、胃が痛くなってきたぞ。僕は隣の人にまだ何もしていない、していないんだ。というか、隣の人?相手………??
え、誰????????????
な~んて思って、左側をちらっと見やったら、自室の無機質な天井がありましたとさ。夢というものもその辺はちゃんと(?)していて、心当たりのない相手の姿はついに分からなかった。分かってしまっては困る。
ちなみにスマートフォンによれば現実は「12:50」で、僕は独身のままであった。
後者の事実には心底ホッとしたのだが、流石に寝すぎたようだ。しかし高校時代の日曜は昼の二時まで寝ていて、そこからデーゲームを見るか本屋まで遠回りでサイクリングするか、という二択だった。課題の存在は忘れているわけではないが、どうせ徹夜するのだ、時間はたっぷりある!……あの頃って変にタフだったな(白目)。
やるべき、とまではいかずとも、やることは沢山あったはずなのだ。当時読むべきは図書館で何となくパッケージが目についた文庫本でも、何となく集めているラノベの新刊でもなかった。今日だって、断捨離の余地がありまくる部屋をなんとかするのもありだったのだ。
少なくとも初期化の済んだ旧PCはいつでも売りに出せるし、最低1か月半以上先にはなろうが次回登板に向けてあれこれ準備するのもいいだろう。……それを「ベッドに寝転ぶ」とか「スマートフォンを開く」より先にできるのであれば、誰でも苦労はしない。それでもこの前、重い腰を上げてワクチンの予約をしようとしたら、そもそもまだ接種の対象外だったことにはちょっと安堵した。あっ、一番後で大丈夫です。
結局ドライブすら行く気にもなれず、午後三時くらいにやっとの思いで時計を直し、せめて散歩くらいするか……と思って家を出た。車でないときにいつも渡る近所の橋が通行止めになっていて萎えて、丘の方へ行ってみるもひぐらしが大して鳴いておらず悲しくなった。帰宅してシャワーを浴びた後「湯船に入った方がいいと思うんだけどなあ」と嫌味を言われて、聞こえるように舌打ちしておいた。親父と会話するのも久々な気がしたが、感慨はまったくない。2年に1秒くらいで十分だな。
次の休日は2日後……またしばらくないのに、と貴重な時間をフイにしてしまったようだ、考えるのはやめる。しかし場所を移動しながら週6で肉体労働させられて、それでも今日も敵地で5-2と勝利を収めた贔屓球団を見ていると、自分自身には労働意欲の欠片もないのだからあれこれ文句をつけるのはこれまたやめよう、と思った。結果的に先発・伊藤将司が8回を被安打4で投げ切って白星、リリーフも休めたのでは、言うことは何もないのだ。