不法侵入者っぽさが際立つ一文だが、
他でもないJR東新潟支社企画のイベント、したがってこれは合法である。よかったね魚、電車かっこいいね。
ところで今更言うまでもないが、鉄道には多くの「プロフェッショナル」が関わり、彼らの懸命な尽力によって安全な交通網として支えられている。
思いつくだけでも、正確なダイヤを守り列車を走らせてくれる、運転士さんに車掌さん。切符を販売したり、駅の案内や整備にあれこれと務めてくれる駅員さん。夜間などに保線作業をしてくれる人々。折り返し運転時での車内清掃員さんの神業ー。挙げればキリがない。
さて。今回友人にありがたくも誘ってもらった見学会でも、やはり多くの「プロ」の技と、その一瞬に懸ける情熱を目の当たりにすることとなった。
1.同行者が全員武装している
新津にも車両製作所があって、時々「鉄道まつり」と称して公開を行っている。最後に参加した時は小学生だったっけな。当時から機関車と新型車両とミニSLではしゃいでいた少年だが、中身そのままで健在だ。飲み物がジュースから酒に変わっただけである。
さて今回は新津の基地ではないので注意だ。新津駅の改札をくぐり、会津から下ってきたGV-E400に乗り込む。ちなみにこの行為を「電車に乗る」と言えるのは今のうちだ。これは見学会がスタートすればもう禁句。間違えると……打ち首で済めばいい方だろう*1。
新津を5分遅れて発車した列車は信越線へ分岐。会津若松から快速「あがの」として下ってきた列車も、ここからは各駅停車である。久々の鉄道旅に、
「GV-E400系だ~、かっこいいね」
そうだね魚、乗れてよかったね。額の提燈も、いつになくご機嫌なリズムで揺れる。
そう、今日はちゃんと連れてきたのだ。前回無断でshu*kuraに乗り、呑みに呑んだくれて帰ってきたので文字通り逆鱗に触れてしまった。すっかりレールのジョイント音にご機嫌な顔を見て、主は安堵する。
さて、集合場所の新潟駅に到着だ。程なくして友人たちと合流する。今回は申し込み枠の都合上、友人と僕を含めた計4人でグループを組むことになっていた。友人が連れてきたらしい残りの2名と「初めまして~、どうぞよろしく」とかいう、死ぬほどぎこちない挨拶を交わす。……ん?
「なんか凄いカバン大きくない?」
思わず訊いてしまった。
僕以外の三名、どうも持ち物が「ゴツい」。上物のライフルでも入れているんだろうか。これで今日GV-E400に乗ってきた僕を問い詰めて「電車って言うな!」と頭を撃ち抜くつもりなのだろうか。しかし案外ケロリと中身を見せてくれる。
「レンズ換える暇なさそうなんで、今日は2個持ってきたんですよ」
ううむ。実は僕、最近耳がおかしくて困っているのだ。もう一回言って、と頼む。
「今日は2個カメラをですね」
「いやその前」
「レンズ換える暇……」
!?
なんということだ。見るからにライフルより威力のありそうなカメラを見せつけられて「ふへへ」と間抜けな笑い声を発する僕。マスクで顔が隠れるご時世に感謝だ。そしてようやく僕はこの子達が①ガチ撮り鉄であること②撮影する列車(シチュエーション?)に合わせてレンズやカメラを使い分けていること、の2点を理解したのだ。……いや、どうもそれだけではない。
「あっちで屯している人たち、全員知り合いなんですよ」
なんということだ二回目。
見るからにあれはネオマキシマ砲より威力がありそうなカメラ、そう考えると全員申し訳ないけどデスフェイサーにしか見えなくなってきた。まだ光線を撃とうという素振りだけでも見せたウルトラマンダイナは立派である*2。しかも話を聞いていたら、
「今日海里乗るの久しぶりなんですよね、3年ぶり5回目?」
またしても僕は「ふへへ」と間抜けな笑い声を溢す。これを自己紹介に代えてもいい。無論ほかの参加者も全員、ネオマキシマ砲に相応しいゴッつい入物を担いでいた。
流石に今回誘ってくれた本人である友人は味方だろう、と思い助けを求めてみたら、
「まあ一応持ってきました」
はい万事休す。
一応、とか言うくせに顔は「どうだ」と自慢し、その手にはやはりゴツい武器がある。多分あれはギガバトルナイザー、頼めば百体くらい怪獣を出してくれそうだ*4。すっかり怖気づき「ふへへ」とまた笑ってしまった。超軽量のショルダーバッグで眠っていた相棒を引っ張り出してご挨拶させるも、抱きかかえる手は震えるばかりであった。
この後は「海里」で使用のHB-E300系が入線し、参加者を車両基地へ送り届けてくれることになっている。完全アウェーという事実を突き付けられ、僕と魚は4番線で立ち尽くした。ホームでの待ち時間はとても長く感じた。
2.留置線・回送線で車両センターまで移動→あれこれ見学
かくして新潟鉄道有識者会合車両基地見学会は幕を開けた。参加者を乗せたHB-E300はあくまでも「回送」として新潟駅を発車、ほどなく留置線で停車する。ここではしかし皆この列車のことを「海里」と呼んでいて、少し安堵した。僕が気にしすぎだったのかもしれない。
指定された4人掛けの座席では、至って鉄道にまつわる雑談やら、世間話やらで花を咲かせた。好きな車両はなんだとか、いつから「撮る」方面での趣味を始めたのかとか。むしろカメラで風景写真を撮っているうちに、鉄道と絡めるようになっていった……という声も聞こえてきた。
僕に関しては、撮る方にも行かなければ鉄道そのものとて詳しいわけではない……ということを正直に打ち明けると「健全だと思います」と返されて何とも言えなくなった。ちなみにお酒は呑む方なのかと訊くと「飲もうとも思いません」と返された。そうだよな。先ほどの評価をまんまお返しする。
さて列車は車両基地に到着だ。係員の案内に従い、台車の点検を見学、床下機器の点検をまた見学、ドア開閉作業の体験など、いろいろと巡……
「ドア開閉の機器はどの会社製のものを使用していますか?」
「床下機器はどのくらいいじりますか?」
もはや専門業者か。
何も勝てない。参加者全員、ドア開閉体験のガイドさんに色々質問(というか意見交換みたいな世間話)をしている。実は別な会社とかで整備を担当している、いわば同業者なのだろうか。先ほどまで仲良く世間話をしていたはずの友人たちはもうおらず、僕だけが「ふへへ」とまた間抜けな笑い声を出すのみであった。
相棒の魚はというと、
運転台ではしゃいでくれていて安心した。こういう幼子のこういう絵面を想像して、すっかり場違いな間抜けと化した主のことは気にしていない。利口な相棒で助かるよ。
3.牽引車クモヤ143見学→連結作業見学
一行はやがて牽引車・クモヤ143の見学に移
パラパラパラパラパラパラパラパラパラパラ!!!!!!!!!!!!!!!!
うおお、と魚もびっくり。僕らの耳には、あの謝罪会見とかでよくメディアが鳴らしている効果音と、全くおんなじやつが飛び込んできた。見ると、クモヤ143の足元に向けて、一斉にシャッターを切っているのである。
それも「クモヤ143、珍しいもん見れた」的なノリでは誰も撮っていない。足元に陣取ってパラパラ、少し横目に移動してパラパラパラ。広いところからのんびり眺めて、デジタルの丸ボタンを「ポチッ」と一回押せば良い、というものでは全くない。自身の立ち位置、被写体の位置、光線やタイミング……「作品」として成立する一枚の為に、その場にいる(僕以外の)誰しもが努力を惜しまない。
さらにはこんな声がスタッフさんに寄せられる。
「前照灯って付いたりしません?」
「テールランプって消えますか……?」
こ、こだわり半端ねえ~~~~~~!!!!!!!!
おかげで僕も前照灯・方向幕ver.を撮り直すことに成功した。嬉しい。この日はしかし方向幕回しといい、要望が通ることといい、かなりサービスにサービスを尽くされたイベントだったように思う。
この次には連結作業が行われるが、
ハムエッグとしらゆき!?!
さらにはE653のMHというシーンも焼き付けることができた。いくら257時代から耳慣れたものと同じとはいえ、僕からすればしらゆきが鳴いているというだけで尊いのである。というか、もうこのカラーのE653を間近で見られた時点で至れり尽くせりだ。他には何もいらない。
このシーンや次の115同士の連結でも、やはりカメラマンの仕事場となった。ほのかに西日で彩られた空と合わせてか、あるいは連結をより間近でとらえるか。作品イメージができたらダッシュして立ち位置に滑り込み、隣同士鎬を削るように、また何枚もシャッターを高速で切っていく。ある者はレンズを素早く付け替え、ある者はそれが面倒だからと別なカメラに切り替える。
鉄道には情熱を持った「プロ」が沢山関わっている、と言った。
それは乗務員や駅員、整備士や清掃員……だけではない、もっと沢山いるのかもしれない。今回「撮る」側として鉄道を愛する人たちの言わば戦いぶりを、間近で初めて見た。
帰り、往路で乗車したHB-E300に再び乗り込むと、友人たちはフィルムの残り枚数をチェックしている。残り980か……と確かめる声は、しかし不安を募らせている。それって少ない方なの?と訊いてみる。
「俺だったら残り1000切ったらもう焦りますね」
そういうものなのか。仕組みが分からずに言うのもなんだけど、列車一本=一作品に対しそれだけの犠牲(?)を要する、ということに違いはあるまい。無数に破棄されたものの中から、作品としてようやく一枚が抽出される。
しかし決して彼らは妥協しない。立ち位置がどうだった、光線は、方向幕は。使うレンズは手際よく選び、あるいは複数台使い分けることだって厭わない。決して安い買い物でないことは想像に難くない。
一心不乱にシャッターを切り続けるプロフェッショナル達。レンズを手際よく付け替え、また目標を定める。すべては鉄道、いや「鉄道のある一瞬」への愛ゆえか。今回出会った人々には命を狙われるどころか、それなりに話しかけてもいただいた。しかし彼らの持つ情熱には、まさしく胸をネオマキシマ砲で撃たれたような気持ちになった。
4.おまけ
などと言っているが、
そうは言ったって電車はかっこいい。
小さな相棒の「またでんしゃのりたいな」に僕も口元が緩む。おお、はしゃぐ2歳魚と24歳児。次はレンズに手を振る客としての再会を願い、プロ達に別れを告げた。
*1:正解は「気動車に乗る」。ただしこのGV-E400系に関しては、走行性能もさることながら「見た目が電車っぽい」という言い訳は通用しないものか。どうか有識者の方々、検討いただきたい。
*2:1998年『劇場版ウルトラマンティガ&ウルトラマンダイナ 光の星の戦士たち』(円谷プロ)より。なお「ネオマキシマ砲」とは、登場のTPCメカ「電脳巨艦プロメテウス」及び敵ロボット「電脳魔神デスフェイサー」に搭載のビーム砲。
*4:2009年12月放映『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』(円谷プロ)より。登場キャラクターのウルトラマンベリアルに渡される、百体の怪獣を操ることができるアイテム(武器)。