今週のお題「わたしの実家」
日曜のこの日は曇天が空を覆った。分厚い灰色が、よく見慣れた冬の新潟の背景を演出する。
今日も僕は自室の勉強机にいる。Oh,THE KODOMOBEYA OJISAN!重量感ある木製の机とキャスター付きの椅子が、かれこれ15年近く作業場として機能し続けているのだった。
ノートPCを起動する。デスクの中央にはラックに隠れるようにコンセントが付いているから、専用のケーブルはむしろ畳まないと上手く収まらない位には余裕をもって挿せる。PCは机の右半分に寄せて、余白を作った左側にスマートフォンをUSBケーブルで繋いでおく。作業のお供にはホットカフェラテを愛用のマグに入れ、これも左側に。
さて、13時半から始まる日曜日、今日もらくがきに勤しむぞ。
のしっ
……ん?
「何してるのよ見せなさい」
見せない!ってか乗らないで!
……いやいや、キーボードを塞ぐのは反則である。しかし連日更新のおかげで放置されて、妹もご機嫌斜めのようだ。申し訳ない。
にっこりした笑顔のままで、ふん、と怒るのは僕の妹だ。大きな黒目玉と三日月を逆さにして閉じた口が特徴の、薄黄緑色の蛙。名前は、
【ヒメ】
である。僕は愛着(と畏怖)を込めて「お姫」と呼んでいる。ちなみにどういうわけか「ヒマちゃん」と呼んでいたこともあった*1。
このお姫は僕が4歳の時に我が家にやってきた。同じ日にやってきたもう一匹の蛙と合わせて、かれこれ二十年も良き相棒・良き家族として連れ添ってくれている*2。
蛙、といっても四本の足は丸い胴体に隠れるようにしてくっ付いているだけで、両生類のそれとは随分かけ離れた、愛おしい見た目をしている。……ノートに彼女を模した落書きをしたのを教師に注意されたとき、
「このネコは後で消してね!」
なんて言われたことがある。失礼な、どこからどう見ても蛙ではないか!
しかしかわいい。なんて愛おしい我が妹。それは何でも許してあげたいところだが、作業にならないので、マスコロと一緒にスマートフォンで車窓動画でも見てもらうことにする。……ところが。
「ねえお腹空いた。ご飯とビールを持ってきて頂戴。日本酒でもいいわ」
「昼からお酒ねだるのやめなさい。……あとごめん今日ご飯ない」
「ケチね!自分だって前に飲んでたじゃない!」
ぐうの音も出ない。無断shu*kuraは魚だけでなく、蛙の逆鱗にも触れたようである。だが今出すわけにはいかない。……流石に肝臓を休ませないと、である。
「……あっ」
何かを思い出したらしい。……視線が一点に集中している。まるで狩りをする肉食獣の眼である。
「美味しそうなお魚がいるじゃない!」
「うわあああああああああああああああああああああああああ」
悲鳴は2歳の稚魚からもあがった。美味しくないよ!食用じゃないよ!蛙さんなら昆虫の方が美味しいよ!……必死の懇願の末、
「魚も蛙さんのこと捕食しちゃうよ!」
「ふうん、食ったらどうなるか分かってるわね?」
「ひいぃ」
2歳魚が可哀想なので「呪いで弟を脅すのはやめなさい」と嗜める。実際どうなのだろうか。大きさによるのかもしれないが、蛙に食べられる魚の図はあまり想像できない。
文字通りの我儘乱暴な御姫様。毎日弟達を従えては、そんなに広くはない子供部屋でよく眠り、よく食べ、よく遊んでいる。
キーボードに乗られると困るが。
使い走りをさせられても困るが。
弟たちを構わず食べようとするのも困るが!
困ることも多いが、実に可愛い。ちなみに究極インドア派につき外へは出たがらないようだ。ありすと気が合うんじゃなかろうか。
彼女ももう20歳である*3。人間でも酒は合法だ。妹と味わう酒はたまらなくおいしいし、変わらない笑顔には毎日癒されている。
……だが。
「お腹空いた。ねえブログ終わったんでしょう、早くじゃがりこ持ってきて?」
「はいただいまお持ちいたします」
「……あっ、やっぱりいいわ」
なんだいらないのか。気分屋なやつめ。何故蛙より家庭内カーストが低いのかはわからないが、こういうところもかわいいので許してしまう。
……ん?
「ここに美味しそうなお肉があるじゃない!」
だから僕を食べるのはやめて~!!!!!