引き続き不要なものをどんどん捨てていこう。断捨離、持たない暮らしである。
といってもこの日は自室ではない。実家から徒歩20分のところにある、祖父母の家である。
軽自動車もすれ違いは困難な路地に入り、更にブロック塀のおかげで出入りが困難な曲がり角を右に入る。短い砂利道を通り抜けると、昭和を感じさせる木造の平屋が、見慣れた姿であらわれた。
横開きの扉を開錠する。新鮮な気持ちだ。祖父母は留守時と夜間以外は鍵をかけておらず、夏場は扉自体閉めていなかった。
昨年祖父が施設に入居したことで、今この家には誰も住んでいないのだ。食器や置物などは全て処分や売却をしてよいと、祖父からも言われている。さあ、片付けるぞ……。
「……お化け屋敷みたい!」
サツキとメイの真似ではない。冗談抜きにそう思った。
建物の外観こそあまり劣化はしていないが、手入れをされなくなった植木や裏庭などは、雑草が覆うのみ。隣のほぼ廃墟と化した家と、その裏の藪?もあいまって、冗談抜きに、ここのスペースだけ『となりのトトロ』の世界を見ているようだった。
中は……埃と煤と何かの巣?とゴミだらけ。一年人が住んでいないだけで、こんなになってしまうのか……と思うような、そんな光景が床や壁に広がっていた。
そして棚に敷き詰められた湯呑、床の間の置物や花瓶である。THE WASHITSU。
「……なんか食器多くない?」
決して大きくない棚には所狭しと湯呑が重なっている。というかこの棚には湯呑以外入っていない。その数、三十、四十、いやもっと?
「これ全部使っていたの?」
「そんなわけないでしょう」
同行していた母が笑いながら否定する。母にとっての実家。まあ「流行り廃りがあるからねえ」とのことではあったが、それにしてもだ。用途で使い分けたとしても、3つか4つ程あれば足りるのではないか?
湯呑コレクションにすっかりびびっていると。
「その奥の扉も開けてくれる?」
母が指さしたのは、40~50個の湯呑を引きずり出したばかりの棚。だが、よく見たらその中にも小さな横開きの扉が付いている。……金貨でも隠しておくのだろうか?と思ったら。
「小さいお皿がいっぱい……ん、これはお守り入れる袋?なんかフーセンガムの付録もある」
木製の小さな菓子受けがこれまた10枚、15枚。それならまだしも、ナントカ神社と書かれた白い封筒が食器に交じっているのはどういうわけだろう。お年玉入れる封筒みたいなのもいっぱいあるし、桔梗信玄餅の赤い包みも発見した*1。あとはコミック版ドラえもんが描かれた……これはなんだ?そして。
「超年季入った紙出てきた」
「何々、価格表?……うわあ、国鉄新潟支社だって」
Oh.
曰く国鉄の職員が加入してた共済ナントカ組合に、現代版生協みたいなシステムがあったらしい。博物館に資料として提出しようかな?と一瞬考えて、やめた。
この棚はガラス戸の上に横開き、下右半分が引き出し、下左半分が横開きになっていた。全て開けていくと湯呑や菓子受けは更に増え、あとは薬類や茶葉、ココアの粉とかもあった。意外にも使用期限が切れていないものも見つかったが、使う気は起きない。
菓子受けの中には面白いものも見つかった。
「なんか名前の隣が削れてるなあ」
大きめの木製盆の裏側に、模様というには痛々しいものがある。これは当然値段もつかないだろうから、廃棄で良いだろう。そう思って母に見せてみた。
「これあれだわ……前のお嫁さんの名前消したんだな」
Oh.(二回目)
言われてみれば、隣に固有名詞が書いてあるじゃないか。余程気に入らなかったんだなと笑う母をよそに、僕は震えあがるしかなかった。とはいえ、
「何故捨てないのか」
「捨てられない質だったんだねえ……ばあちゃんは」
多分、そのすべてを買ったわけではないだろう。お祝い、記念品、お土産、古いお守りやおふだ。十年前どころか二十年前、なんなら平成になる前からある物。
物を捨てるのって難しいからなあ。大きさの問題、燃えるのか否か、捨てて罰が当たったりはしないか、そもそも後々必要になる大事なものではないか?
……色々考えることは多いのだ。持たない暮らし、と言うのは簡単である。だが、
「とりあえずこの棚の湯呑と、花瓶。これだけにしよう」
「ああ、そうか台所にもあるんだっけか」
そうそう、と母が頷く。かつて食卓として機能していた小さな和室から、台所までは地味に離れていた。食卓から台所は見えないし、台所から他の部屋も見えない。
当然、そこの収納にもいろいろなものが隠れている。ただ、母が指さしたのはそこではなかった。
「あと広間の大きな棚、その中にも湯呑たくさん入ってるから」
Oh.(三回目)
まだあるのか。しかし花瓶5点とこけし5体、置物1体。あとは廃棄するものも含めると、食器推定三桁に日用品と、壁飾り。
……これ以上は後日でよかろう。まるで遺跡を漁るかのような背徳感と、買取査定で得た1点10円×16点の代金*2を手に、僕は自宅へ帰った。
【追記 #新年書くチャレンジ を未遂に終えて】
『書く習慣』*3の著者・いしかわゆきさんが発案された「#新年書くチャレンジ」という企画に、元日より参加させていただいた。毎日記事として構成可能なネタを収集し、加工してアウトプットする作業のなかで、身近なものを注意してよく見ることは楽しかった。
Day1から10までのこの10日間チャレンジで、最終日で途切れるとはなんとも僕らしい。是非この間抜けぶりを笑って欲しいと同時に、通常更新に戻って以降の毎週水曜夜もお楽しみ頂ければ幸いである。