むしょくとうめいのらくがき

鉄道と酒と野球ではしゃぐ4歳魚と26歳児の気ままな放浪記とか落書き 

【マロが行く】眩しい青、水面が光る初夏の候 -羽越本線(新津~府屋)

 初夏の光線と青さに誘われて、海が見たくなった。

 

 

 

1.新津(10:43着)→新発田(11:13着)/羽越本線GV-E400系

 

「実家は海or山」問題 

 正しくは電車に乗りたかっただけなのだが、五月最終盤の土日は”夏到来”に相応しい、青さと暑さが五感を支配していた。少々眩しすぎるくらいの光に呼応して、水田が生命を漲らせている。午前9時を少し回るころは、近所の橋からでも数十キロ先の山がこちらへ迫ってくるようだった。

 進学で県外に出ていた頃、実家は新潟の「海よりか山よりか」という問いをよくされた。だが、どちらを選んでも嘘でもまことでもないから困る。いや、嘘でありまことでもある、というべきか。つまりどちらでもないのである。海でもないし山でもない。寛大な友人なら「平野のど真ん中」といえば納得してくれたのだが……。

 確かに晴れていれば、五頭山脈が季節に呼応した装いでいざなってくる。しかし山までは距離がある。標高500メートル、あるいは1000メートルのナントカ岳やナントカ山が近くに見えているような気もするのだが、少なくとも地元の標高は10メートル以下だと思われる。

 かといって、海は見えない。耳を澄ませても、波の音も、汽笛の音も聞こえてこない。そのせいか浜風らしいものもあまり吹いてこない。……実家からは、海へ行こうにも山に行こうにも、どちらも車で1時間程度かかる。これは今でこそ近いといえるが、空いた時間にサッと行って帰れるか、というわけではないのだ。

 では何なのか。

羽越線新津~京ヶ瀬間車窓 青くなった田園を眺めゆく

 正解は越後平野!ここは郷土を米所たらしめる平野のど真ん中、それ以外ではない。ボタンを押して即答しなくてはいけない問題なのだ。

ホームで待機(という名の遊び)

 そんな越後平野の真ん中・新津をきょうも元気よく出発しよう。

 ……といって少々張り切りすぎて、予定の時刻より一時間も早く着いてしまった。いつもなら無計画でドジなことを、相棒・マスコロに糾弾されるところである。だが、この日はそれを回避することができた。

SLとしらゆきをお見送り(駅弁の特設販売もあるよ)

早めに着いてSL(10:03発)をお見送り

 この日は日曜日、SLの運転日だ。

 貴婦人が今週も優雅に、且つ力強く、鉄道のまち・新津を出発していく。石炭の残り香が、別方面へ旅する我々の気分をも高めてくれた。また新津駅ではSLの運転日に合わせ、ホーム上で駅弁の特設販売を行っている。神尾弁当さんに三新軒さんと、どちらのどのお弁当も美味しそうである。

 SLを見送って約30分後、今度は1番線ホームに列車がやってきた。

しらゆき4号(10:35発)をお見送り

 唯一神・E653である。SLとは違い、滑り込んできて客を拾ってすぐに発車していった。蒸気機関車の「黒」とは対照的なアイボリーホワイトが、信越線を長岡・上越へ颯爽と走り出していく。

 これが鉄道のまち・新津!4方向3路線が乗り入れる交通の要衝だ。今日はここを始点とする羽越本線で北上することにした。SLの走り去った3番線の長いホームに、たった一両の気動車が停車する。

GV-E400形気動車 一両のワンマンカーから旅をはじめます

 長距離客車列車用の長いホームこそ余剰となったもの、現在でも様々な列車、様々な人が行き交う駅を出発。向こうの4番線ホームで小さな男の子が手を振っていて、ばたばた、と手びれを振り返す3歳魚。咆哮を上げる気動車は、田園を抜け、川を渡り、なおも青い、青い越後平野の中を走っていった。

 

2.新発田(11:17発)→府屋(12:13着)/特急いなほ3号

 

4両のいなほにご注意

 新発田に到着。4分の接続で、下り方面の列車に乗り換える。

「マスコロ、いなほに乗るよ」

「!!」

 相棒の提燈が、ぴくり、と反応する。今日は幸い(珍しく)ご機嫌。……この数日、僕の贔屓球団がロッテと戦い、お互いに熱い譲り合いをしていた*1。そのためか相棒もいつにも増してまた凶暴さが増していたものだが、ここまでは怒られも噛みつかれもしていない。

 なお、このいなほ号を逃すと村上で時間が空きすぎてしまう*2、という事情もある。村上から鶴岡・坂田方面へ向かう普通列車の本数は一日8本。桑川、今川、勝木などの途中駅を利用する場合は、時刻表に注意されたい。

いなほ3号・10号はグリーン車無しの4両編成(それ以外は7両)

 ということで、乗車するいなほ3号を待った。だが様子がおかしい。

おや、いなほのようすが……?

「……しらゆき?」

 神々しきアイボリーホワイトをここでも拝むとは。今日はついている。……だが問題がある。

「座れるかな……?」

  E653系のしらゆき編成は4両。特急いなほ号の基本は7両編成(うち先頭グリーン車1両、指定席3両)であり、自由席は新潟寄りの3両である。これが4両になると、指定席2両・自由席2両と変わる。……おそらくは需要減や車両の余剰を踏まえた改正*3と思われるが、新津で見送ったしらゆき4号の自由席はわりと乗っていて*4、ちょっと不安になってきた。

山側もおすすめ

たぶん加治川を渡る さらに北を目指します

 なお心配は杞憂に終わった。指定席とどちらが混んでいたかわからないが、4号車で間隔にゆとりを持って座席を確保できた。

 乗客のお目当てはやはり村上以北の海岸線かもしれないが、村上の手前では僕は山側をおすすめしたい。田園風景や遠くの山々は美しい。また山に飲み込まれたかのような廃墟に、小道の入り口を探すのもおもしろい。相棒も、熱心に目を凝らしている。

「何か見つかった?」

「猿がいない」

「おおん。北側にはあまりいないのかもしれないね」

「……捕食したい。お腹空いた」

 はい。

 この日は母も猿を探しに山へ出かけたというが、会えなかったという。残念だがそれよりも、相棒の空腹をなんとかしなくてはいけない。

駅弁タイム(神尾弁当部さん「えんがわサーモンいくら」1380円)

 ということで。

神尾弁当部さんの「えんがわサーモンいくら」(1380円)

「美味しそうなお魚!いただきま~す」

 大口を開け、無心でかぶりつく。

「共喰い……」

 野獣の如き姿に本音がポロリ、と出てしまい「何か言った?」と睨まれた。何でもないよ、いっぱいお食べ……。

日本酒もできたらセットで

 このお弁当の製造元である神尾弁当部さんは、他の代表的な商品に「えんがわの押し寿司」がある。食べ応えのある食材探しに、生臭さの解決方法など、苦労を重ねた分思い入れが深い一品なんだとか。

 ううむ、美味しい。そしてこの瞬間、あることに後悔することになった。

(……日本酒が欲しい)

 絶対に合う。合わないわけがない。相棒が気づくと怒られそうなので、ここは黙っていることにした。

 特急列車はどんどん北上していく。村上を過ぎて、希少な交直切換の作業を車内から拝み、いよいよ海岸線が近づく。きらきらと光る水面のはるか向こうに、粟島がその影を浮かび上がらせる。この風景も絶対酒の肴になるはずだと、僕はリベンジを誓うのであった。

 

3.府屋駅到着&府屋(14:19発)→新津(16:24着)

 

越後の最北端で、夏の海の声を聞く

 約1時間ちょっとの乗車で、いなほ3号は府屋に到着した。

府屋駅到着 E653系いなほをお見送り

 ホームに降り立った瞬間、直射日光が頭上から突き刺さり、コンクリートや鉄などすべてから放たれる熱に五感を支配される。暑い。初夏というに相応しく、暑い。灼熱は語彙力を奪い去る。

海の見える無人

 唯一神E653が走り出し、越後から庄内路へとさらに北上していった。同時にその向こう側の、一面の青が広がる。

ホームから海が見えるよ!

 柵の向こう側には海が広がる。海である。広くて大きい、青。国道7号と柵を挟んだらすぐ後ろに日本海の波が打ち寄せている。声がする。潮風が囁く、海が押し寄せる、生命が呼吸をする声―。

「……よくわからんこと言ってないで、はやく散策するよ」

 はい。

 ちなみに風景に感動していたら、駅弁のゴミを捨て忘れたことに気付いて絶望し(てまた怒られ)た。府屋駅にはゴミ箱の設置がないので、いなほ号かGV-E400に乗ってくるのであれば車内備え付けのゴミ箱に捨ててくることを推奨する。なおお手洗いはある(しかも割と綺麗)ので安心されたい。

府屋駅周辺、海岸散策ギャラリー

 駅の改札・出入口は海の反対を向いている。そのため海に出るには少し歩かねばならない。にしても、人がいない。駅も周辺の住宅街もたいへん静かなもので、国道をかっ飛ばす車の音と、潮の声が聞こえるだけであった。

いなほ3号を追って貨物列車が走り去る

待合室には畳が

府屋駅時刻表

もうすぐ海開きだね!(なお、海水浴にはいかない模様)

 海、何時間でもいれる。適当な石を見つけて座っていれば、波と風が勝手にしゃべってくれるのだ。本当なら「聞いてくれ」って相談するべきかもしれないが、今日は駅弁とともに列車に乗り、海の見える駅で降りる、とかいう幸福の必要十分条件を既に満たしたといえる。

 ぼけーーーーーっ、と眺めていても、海は歌をやめない。最高である。

「……暑さで頭やられた?満足したし帰るよ」

 はい。

 14:19、駅に戻った我々を拾い、鼠ヶ関からやってきたGV-E400が再び走り出した。

ビールを飲んで帰る(だが、ビールしか飲んでない)

 帰り道は各駅停車でのんびり行くことにした。

マスコロ「捕食するぞ」僕「村上駅は戦場」

府屋~村上間はGV-E400で セクションの都合で気動車を充当

 村上で15分ほど接続の時間があるので、軽食の調達をおこなう。直流区間となる村上からはE129系新発田からはキハ110系に乗り換え、海岸線を離れた羽越本線は田園の真ん中へと戻ってきた。西日がどこか切なく、寂しい。だが、久しぶりに列車内で呑むビールは美味かった。

 

「やっぱり乗り鉄って最高だね!たのしかった?」

 快晴に恵まれて、初夏の光と薫る風を浴びながら旅に出た。海は青く、駅弁は美味しく、鉄道の旅は楽しい。今日は手ごたえがある。相棒よ、満足いただけたかな……?

ビールが美味い!

終点の新津に到着 キハ110は何度乗っても味わい深い

「日本酒は?????????」

 はい。

 幸いこの日はロッテが3対2で勝利したことで、僕は噛みつかれずに済んだ。初回ノーアウト満塁をなんjネタのチャンスとしてある意味活かしてくれた贔屓球団と、ロッテの好左腕・ロメロ投手を讃えるべきである。

 

 実は列車の中で飲酒する際、缶ビールしか飲んだことがない。分量の問題もあり、中々手にする勇気がないといえばいいのか。買うタイミングも、お店の有無や休憩時間等で問題はある。賢い「呑み鉄」の極意を、六角さんの番組から学ぶことにしたい。

 何かコツとかおすすめの酒があったら教えてください。

 

4.今回のメモリー&インスタ

 

モリールート(新津~府屋 20駅)

他線含みません!是非挑戦してね

 府屋はえちごツーデーパスのフリーエリア、かつ特急いなほの停車駅である。羽越線の醍醐味である海岸線を堪能するのには、おすすめしたい行程だ。ただし、笹川流れの遊覧船(道の駅笹川流れ)や、勝木ゆり花温泉を訪れるのであれば、いずれも特急は通過する*5ので注意されたい。

 

行程

 

料金

  • 新津→府屋 1,690円
  • B特急自由席 新発田→府屋 950円
  • 府屋→村上 680円
  • 村上→新津 990円 

 

インスタも見てね

 
 
 
 
 
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*1:ZOZOマリンでの3連戦。1戦目は佐々木朗希とアーロン・ウィルカーソンの投げ合いの末、0-1で阪神が勝利しウィルカーソンが4勝目を挙げた(佐々木は勝ち負け付かず)。2戦目は2-6で阪神が勝利。3戦目は本文後半に記載。

*2:時刻表 村上駅 羽越本線:JR東日本 (jreast-timetable.jp)

*3:20211217_ni01.pdf (jreast.co.jp)

*4:なお指定席。1両目に至っては誰もいなかったように見受けられた。

*5:道の駅笹川流れ……桑川駅、勝木ゆり花温泉……勝木駅。なお快速「海里」は桑川停車、府屋通過。