とりあえず一日電車に乗って遊ぶことにした。
1.新津~直江津/信越本線
土曜日に予定がないという、どうも違和感を覚える一日のはじまり。おまけに天気は快晴であった。
冬の新潟には極めて珍しい、澄んだ青い空が広がり、太陽が照らす風景である。先日の初冠雪の影響で、白く染まった越後平野*1に、光線がなおも降り注いでいる。……眩しい。
この折角(?)の、快晴な土曜休みをどう使うべきか。とりあえず決めていることは、
「電車に乗ろう」
これだけである。
というわけで、とりあえず朝食をとって家を出よう。眩しいほどに晴れているが、肌に感じる空気は実に冷えていた。12月ともなれば季節通りである。おはよう冬、おはよう越後平野。朝日がのぼる、僕は旅する。
時刻にして12時である。
①新津12:27発→長岡13:22着/438M*2
新津駅に到着。早速、1番線に滑り込んできたE129系に乗り込もう。
……本来なら新津駅で15~20分ほど空気を吸ってから旅に出るのがお決まりなのだが、この日はギリギリになってしまった。既に昼で、朝飯は実質昼飯で、案の定相棒・マスコロには怒られ、駅の指定席券売機が使えず、充電は何故か既に1%であるが、まあそれ以外は上々のスタートを切ったといえる。
指定席券売機で何を買おうとしたのか。
えちごツーデーパスである。
金・土・日の連続する二日間で、新潟県のうちフリーエリア内における普通車自由席が乗り放題になるという切符だ。金額にして2,740円。新津が起点の場合、柏崎まで往復すれば余裕で元を取る*3ことが出来る。
また、JR線だけでなくえちごトキめき鉄道、北越急行などの路線も利用できるため、乗り換えの際に切符を買い直す手間が省けて助かる。「2day」をうたっているが、1日だけの利用でも、新潟県内で乗り鉄をするなら是非お供にするべき切符だ。
……それなのだが、今まで使ったことが無かった。
この切符は「金・土・日の連続する2日間」のみ有効である。つまり「日曜日はじまり」にはならないので、初めから日曜に取り扱いはしていない*4らしい。今回この土曜休みのチャンスを逃すまいと思ったのは、これが理由である。購入は指定席券売機、または窓口にて可能だ。
②長岡13:32発→柏崎14:17着*5
さて長岡に到着である。
同じ列車と記念撮影したようにしか見えないが、同じ列車ではないから仕方がない。同じE129系でも、4両編成から2両のワンマンカーになれば印象はかなり変わる。発車時に「列車から離れてください(真顔)」なんていうのもワンマン列車ならでは。
信越本線は次の宮内で上越線と分岐、西へとカーブして信濃川を渡る。ここから先は里山、丘陵地帯。途中来迎寺ではそこそこの乗客が降りていき、塚山を過ぎると最初のトンネルを潜る。旅を始めたばかりだが、空気は昼下がりである。まあ、いいか。
③柏崎14:23発→直江津14:50着/特急しらゆき6号(56M)*6
柏崎で2度目の乗り換え。ところで用事があるので一度改札を出る。
特急券を買うためである。
新津を13:20に出発するしらゆき6号から、一本前の各駅停車に乗って逃げ切れるのは柏崎までだ。ここからは素直に、神の御導きを乞うことにしよう。順光線にアイボリーホワイトを輝かせたE653系が、ホームへ滑り込んでくる。……それにしても、様子がおかしい。
「……混んでいる?」
自由席の4号車は、窓側はほぼ埋まっているような状況である。それでも柏崎で降りた乗客がいたため、入れ替わりで空席を確保できたような感じだろうか。
柏崎から直江津という区間でも、特急課金による恩恵は大きい。もっともこの場合、「これを逃すと列車がこない」という意味合いの方が強いとは思われるが、どのみち僕らは653神に乗っている。それが全てではないだろうか。
2.直江津
直江津に到着。ここでしばらく遊ぶことにする。
①バラエティ豊かな交通の要衝
遊ぶとはつまりこういうことである。ただホームを歩いてスマホを向けているだけなのだが、何でこんなに楽しいのだろうか。かつては確かに北越・はくたか・寝台特急が発着した交通の要衝であったが、令和の直江津駅とて彩はとても豊かではないか。我々兄弟の語彙力は再びあえなく喪失した。
極めつけは、しらゆき6号のあとにのんびり発車していった雪月花、そしてその向こうを市振の関へと向かっていった急行列車である。
②化石と戯れる -D51レールパーク
直江津は駅周辺も楽しいので気に入っている。
西口にはハイマートの駅弁に、電車を見ながら食べられるそば屋がある。少し離れるが水族館もできたし、日本海にも近い。だが今回はその逆に用がある。
ここには化石が眠っていた。直江津駅の南?東?口から歩いて5~6分くらいだったろうか?施設の名前が既に「D51」をうたっているので、既にあるのは知っていた。だが、分かっていても実物を見るのは感動するのだ。
正確に言うと眠ってはいなかったが、ともあれ蒸気機関車が動いていて、413の車内に入れるという。家族連れが何組かいる中で、構わずキャッキャッ、とはしゃぐ25歳児に、3歳魚がまたも何か言いたげな視線を向けている。
「しかし弟よ。はしゃぐな、と言うほうが無理である」
「違う、そこじゃない」
ん?何やら提燈が車体先端部を指している。
「乗るところが違う」
こいつもはしゃいでいる。完全にこれは教育の成果といえよう!ハハハ!*7
3.直江津~十日町~越後湯沢/北越急行ほくほく線
満足したので次の目的地へ行こう。
①直江津16:57発→十日町17:41着/847M
HK100形である。
目的地は列車内にあるので実質完結なのだが、お楽しみはこれからだ。2両目「ゆめぞら」の転換クロスシートに乗り込んで、
居酒屋HK100の開店である。春に出来なかった、ローカル線に乾杯!なシチュエーションのもと、君の井酒造のカップをパカッ!と開けるのだ。
「……大丈夫かこいつ」
相棒がまたも呆れている。なに、いつものことではないか。最近は確かに酒量が増えてしまっているが、鉄道旅という最高の肴があるのだから仕方がない。……ん、そういうことではない?
「ほくほく線なのに呑んで大丈夫???」
「……そういえばそう」
車内の掲示は確かに、こう訴えていた。
【ほくほく線内にトイレはありません】(迫真)
②十日町18:47発→越後湯沢19:21着/849M*8
もっとも実際は承知の上であったので、十日町かまつだいあたりでお手洗い休憩をはさむことにする。これもフリー切符があれば比較的容易に出来る芸当だ。列車待ちは確かにすることになりそうだが、終電にはまだ早すぎる時間帯である。
十日町で休憩後、再びほくほく線を東へ向けて出発した。犀潟を出たときは、西の方に濃い朱の色が見えたが、それすらも闇に吞み込まれてしまった。越後湯沢駅に到着である。
4.越後湯沢~新潟~新津/上越新幹線&信越本線
①ホームにて
越後湯沢駅の改札を出るとすぐに土産物・レストラン街があるが、これらが閉まるのはどうも早いらしい。だが、それでもこの一日を終わらせるにはまだ早い。そもそも、家に帰るまでが旅であり、休日である。
ホームにあった手湯で(不満げなマスコロを横目に)ぬくぬくしていると、11番線に列車が到着するとのことである。何が来るのだろう。そういえば、上越新幹線の近距離タイプ「たにがわ」号は、ここ越後湯沢が終点*9だ。
なんということだろう。あの200系が復活したのかと思ったが、顔はどう考えてもE2系だった。それにしたってよく似合っている。実物にお目にかかれるとは思わず、大いに兄弟は感激した。
②越後湯沢20:15発→新潟21:03着/とき341号(1341C)*10
12番線に乗り込む予定の列車が到着したのは、その数分後である。……またマスコロが何か言っている。
「……どしたの?もう電車来るよ」
「えっ?だってホームに入るだけなんじゃないの?」
新幹線ホーム=入るだけの場所みたいな感覚だろうか。残念なことにあれはれっきとした乗り物で、旅客用の交通手段である。
場内アナウンスが【10両編成でまいります】と告げる。ライトの黄色い光がトンネルを抜けてくる。こちらは見慣れた、ピンクと青の帯をまとった新幹線だ。
「このE2系見送ったら出るの?」
「いや乗るんだよ?」
「!?」
提燈は興奮している。しかしそんなに驚かないでもらいたいものである。確かに、なんだ、あの……最後に乗ってから丸1年が経過しているのだが。その事実を改めて知らせると噛みつかれるだろうから、言わない。
③帰るところ
車内に備え付けのトランヴェールを開く。前半、『旅のまにまに』というエッセイが目にとまった。
【帰りたい場所】
作家・柚木裕子さんの、とある12月の駅での回想である。
師走、というに相応しく、どこか急かされるように行き交う雑踏の中に、少女の泣き声を見つけた。帰りたい―それが少女の家か、はたまた別な場所を指しているのか。ふと蘇る、或る幼き日の夏の記憶。”帰省”という名目で、長い距離を旅し、親族の歓迎を受けた。お菓子は食べ放題だし、海で遊ぶのは楽しかった。それなのに彼女は、海もない、花火もしない、質素な料理を食べる、そんな日常に「帰りたくなった」と、気付けば涙を流していた―。
僕にとっての帰る場所がどこなのか、という問題は、大学に進学し実家を離れたタイミングから、既にあった。当時下宿していた山梨の小さな町で、美しい自然と澄んだ空気を感じた。かと思えば東京の大都会がすぐ隣にはあって、次から次へと電車はやってきて、野球場もアキバもあって、つまり好きなものは何でもあった。
大学を卒業し、こちらに戻ってくるときの心境は、山梨からも東京からも僕は出てきてしまったのだ、という寂しさの方が強かった。そしてしばらく経って「僕はどこに帰るべきなのか」「帰るとは何か」の問いをすることになる。
ただ悲しいことに、長岡、燕三条と、闇夜の中を確実に北へ向かうこの進路は、暗闇の中にあったとしても確実に「家路」であった。
いちおう今暮らしていて、自室と寝床となるベッドがある。住所となる家がある。そこに至るまでの小さな改札、ロータリー、商店街、住宅街の路地、橋。山は遠く、空はどこまでも広く、はるかに平野である。それらの情景が「まもなく終点、新潟に到着いたします」という案内放送で、否応なしに脳裏に映し出される。
E2系が終着駅に辿り着く。少しの名残を惜しんだあと、足は勝手に乗り換え改札へ、そして在来2番線に停車する信越線・長岡行きへと歩き出す。また長岡へ戻ることもできたはずだが、それは考えなかった。
④新潟~新津(※時刻忘れました)/信越本線*11
楽しかった。新幹線の車内で、窓枠の缶ビールが揺れている錯覚を起こし、たいへんに気分は爽快になれた。
だがそれらはあくまで旅であり、夢なのだ。一睡の夢、一杯の酒である。乗り放題の切符を手にし、理想郷のようなものを求めても、気が付くと「帰ってきて」しまっていた。
実に滑稽だが、もうそれを嘆くことも、悲しむのもやめようと思った。どこに恋焦がれたとて、そこには家もなく、待つ人もおそらくはいないだろう。結局のところ、この暗闇に広がる果てしない越後平野こそが、僕の「帰るところ」なのだと思う。
それならば、また旅立てる日を楽しみにしようと、僕は最後の改札を出るのだった。
5.おまけ&まとめ
おまけ1(インスタもみてね)
まとめ1・行程
①信越本線 普通 新津12:27発~長岡13:22着
②信越本線 普通 長岡13:32発~柏崎14:17着
③信越本線特急しらゆき6号 柏崎14:23発~直江津14:50着
⑥ほくほく線 普通 十日町18:47発~越後湯沢19:21着
⑦上越新幹線 とき341号 越後湯沢20:15発~新潟21:03着
⑧信越本線 普通 新潟~新津(※時刻忘れました)
まとめ2・交通費
・ツーデーパス 2,740円
・新幹線指定席特急券 越後湯沢~新潟 3,170円
おまけ2
「もう少し早起きしない?てか早寝しない???」
はい。
*1:その日、新潟市内(=平野部)は雪が降り白くなったが、阿賀町(=山間部)では雨のみで雪はなかった、という現象も起こった。標高が低くなるにつれて白くなる風景は、これまた違和感であった。
*2:時刻表 停車駅一覧(新潟-長岡):JR東日本 (jreast-timetable.jp)
*4:したがって、日曜に上記引用記事のような行程を組む場合も、予め土曜に購入だけしておくことが推奨される。
*5:時刻表 停車駅一覧(長岡-柏崎):JR東日本 (jreast-timetable.jp)
*6:時刻表 停車駅一覧(特急しらゆき 6号(新潟-上越妙高)):JR東日本 (jreast-timetable.jp)
*7:つまりやっぱり一番はしゃいでいるのはこの25歳児であった。
*8:時刻表 停車駅一覧(直江津-越後湯沢):JR東日本 (jreast-timetable.jp)
*10:時刻表 停車駅一覧(新幹線とき 341号(東京-新潟)):JR東日本 (jreast-timetable.jp)
*11:462M(21:16新潟発)だったとは思われる。