折角引きこもってばかりなので、引き続き部屋の整理をしていこう。
今回は机の引き出しに手を付ける。
例えば使わないクレジットカードの解約や破棄なども、自身の意思がはっきりとしているうちにやっておくべき大事なことであると思う。前者に関しては、使っているものに関しても暗証番号を書き留める、未納金はいくらか確認しておく……などか。
ううむ。家族で言ったら順番的に僕*1なのだが、億劫だなあ。一昨日ようやく、契約して3年半で1円も使わなかったカードの解約を申し入れたが、上出来だろう。こういうのは電話でしかできないぶん、余計にやる気がいる。
さて、子供部屋にありがちな勉強机には引き出しが何かと多い。奥行とか足元とかも使うと、それなりにものを収めたり置いたりできる。THE・KODOMOBEYA・OJISAN。数日前までは教科書類だけじゃなく、三角定規やおはじき*2なんかもあった一室だ。
手元左下の大きな引き出しを開ける。ここにはかつて未使用のノートやメモ帳など、文具をストックしていた。現在はモバイルバッテリーやUSBケーブル類の置き場となっている。……相棒の魚が不思議な顔をしている。
「どうしたの?ほしいの?」
「……いや、非常電源がいっぱいあるね」
そうだね。駅メモ遠征では必需品。車内充電とかいう神設備がある車両はまだ限られているのだ。宿泊を伴う片道300km以上の旅程では、2個持っていくとかなり安心できる*3。……とはいえ。
「問題です!モバイルバッテリーは全部で何個あるかな?」
「4個~」
「正解!よくできたね!」
「……このうちいくつ使ってるの?」
「……2つかな」
「こんなに要るの?」
うぐっ。
増える理由としてはとても簡単。旅に忘れていくからだ。
電源は結局「試合中の撮影や400km越えの移動に使うかもしれないから」と言い訳をして、捨てないことにした。
だが2歳の相棒は容赦がない。同じ引き出しから「これなあに?」と箱を見つけてくる。
ブラウンが大人の上品さを演出する立派な箱。それは子供部屋では未開封のまま眠っているはずである。 確か高1の誕生日だったかに、都会に住んでいる伯父からプレゼントされたものだ。
開けてこそいないが、中身は万年筆だと思う。母からも、
「文房具だと聞いてるから、万年筆だろうよ」
と聞いた。それはそうだろう、いくらハッピーバースデーとはいえ、筆記用具を包む箱としては上質すぎる。きっと様々な願いを込めて贈ってくれたのだろうが、本人は子供のまま24年の歳月を過ごし、挙句もらったものは未開封のまま放置していたのだ。
ううむ。使わないのであれば、何より道具が可哀想というもの。きっと高価だったであろう万年筆を、ありがたく使わせていただこう―。
……ん?
何やらペンの下半身をつまんで回すと、先端から金属の筆が姿を見せた。もう一度回せば赤色、さらに一度回すと隠れる。……いいや、それだけではない。
「一番後ろがシリコンラバーになっているね」
そんな難しい言葉よく知ってるね。しかし魚の言う通り、末端はボールペンのように押すものではない。黒い、特殊としか言えない、でも見たことはある素材。
「スタイラスパーツ……なになに、スマートフォンやタブレットなどの操作?」
なんということだ。
箱の中身から出てきた藍色のペンは、BOOK-OFFとかで署名に使うあのペンに酷似しているではないか。ためしに自分のスマートフォンでアプリを起動するのに使ってみると、一応反応はした。
実に恐ろしい。高1の春に贈られてから、箱の質感だけで万年筆だと思い込み、そして未開封のまま自室に眠らせていたのだから。
「これはいつか使うかもしれないね」
10年以上の勘違いを魚と笑いあった僕は、濃藍色のペンを箱にしまい、机の引き出しに戻した。