お腹が空いたので、魚を連れて外食へ行くことにした。
電車を乗り継いで長時間移動し、目的地では食事だけして、滞在は30分そこそこで引き返してくる―人によっては交通費の無駄を指摘する意見もあろう一方で、特段珍しいことか、と言われればそうでもあるまい。もっとも、それが「新幹線で3、4県先へ」となると話は違ってくるが……。
僕が学生時代を過ごした山梨・都留から、例えば八王子までは各駅停車で約1時間20分、甲府までは約1時間30~40分、東京へは2時間と十数分*1。予定のない休日は電車に乗り、名高いラーメンチェーンが立ち並ぶ街に赴いて、迷った末に美味しい一杯を頂く……という過ごし方をすることはよくあった。
さて今回の目的地・村上まで、往路は1時間23分。
実は相棒からも「食べたい」とリクエストがあったのだ。美味しいラーメンを求め、僕は新津駅の改札をくぐった。
- 1.新津(10:43発)→新発田(11:13着)/羽越本線
- 2.新発田(11:27発)→村上(12:05着/羽越本線
- 3.村上(13:19発)→新潟(14:05着)/特急いなほ8号
- 4.後書(今回のメモリー)
1.新津(10:43発)→新発田(11:13着)/羽越本線
4番ホームに待機していたのはGV-E400形単機。気動車1両、という運用形態が、何とも味わい深い。……しかし「居住地付近の公共交通」と考えると、複雑な気分になるところはある。
一両の車内に立つ者はいない。客同士の空間に余裕を保ったまま、気動車のエンジンが咆哮を上げた。
先日から新潟はn回目の今年最強寒波に見舞われ、阿賀野川の向こう側には白く染まった田園風景が広がっていた。今年こそは「雪化粧」程度で済むことを願う。この雪こそ米処・酒処への恵みであることは重々承知だが、生活するうえでは毎年無条件で立ち塞がる「障壁」なのだ。
窓枠には相棒の魚がちょこん、と乗っかり、その向こう側を見つめている。仮に「引っ越しなんて嫌だ!ここから離れたくない!」と言っても、僕の手に掴まれれば付いてくるしかないのか。……いいや、難しく考えるのはよそう。
思考は前日の睡眠不足(と、眠剤と鼻炎薬を間違えた影響)に邪魔をされた。眠りから覚めて終点・新発田のホームに降り立った僕と魚は、遅れているらしい新潟発・村上行きを待った。
2.新発田(11:27発)→村上(12:05着/羽越本線
各駅停車村上行きの前に、先行する特急いなほが1番線へ滑り込んでくる。
ホームの雪とわずかな日差しが鮮やかな車体を引き立てて、魚もご満悦。白き絨毯の上を颯爽と走り出していくE653系に、一緒に手を振った。
この後の行程は相棒にはまだ秘密。そもそも、僕自身も大して何も決めていない。
後続して4分遅れてやってきたE129系に乗り込んで、数十分。目的地の村上に到着だ。
村上駅といえば大量に干されている鮭。うちの子が何やら上を睨むので、抱きかかえてホームを後にした。時間的にも都合がいいので、早速お店へ向かおう。
駅からの道のりは500メートル程度しかない。店名の暖簾と「商い中」の看板に安心し、扉をガラリ、と開けた。
町の定食屋、という雰囲気を醸し出す店内には、常連客と思われる方がカウンター越しに店主さんと雑談する姿がちらほら。メニューを見て惹かれたものを指さして、
「煮卵トッピングでお願いします」
オプションにあるのなら迷わない。スープに合うか否かの問題はあるが、醤油味なら相性もいいはずだ。……根拠のない適当予想はしかし大当たり。
「美味しい!」
魚も大喜びだ。他に感想は要らない。僕は幸せである。……いつもならスープもすべて飲み干すところであるが、しばらくぶりにラーメンを食べずにいたせいだろうか、完飲とまではいかなかった。甲府の大黒屋のまくり券*2も、もう貰うことはできないだろう。
「御馳走様でした!」
御腹一杯、幸せ沢山だ。時刻は13時ちょうど。滞在時間1時間ちょっとで、我々は村上を後にする。
3.村上(13:19発)→新潟(14:05着)/特急いなほ8号
改札を潜り一番線ホームの先へ進む。と、何故か魚が困惑しているので、どうしたのかと訊いてみる。
「だって次の電車、特急って書いてあるよ?」
「うんそうだね、特急新潟行きって書いてあったね」
「……え、E129が特急で走るの?」
「次の特急は山形の方から来るから、交直どっちも走れる車両じゃないといけないね」
言いながら、疑り深いなあ、と思った。確かにこんな主だから気持ちはわかる。しかし「特急券ならあるよ」と見せてやると、額の提灯がぴくん、と硬直した。興奮しているときの合図だ*3。
「ええ!!ほんとにいなほに乗るの!?」
サプライズ成功!
言った手前、GV-E400やE129が代走……みたいなオチになったらショックである*4。ホームには無事に強風と切換セクションを潜り抜け、越後路に足を踏み入れた「フルーツ牛乳色」のE653系が滑り込んできた。
行きに新発田で見送った下りのいなほはグリーンも割と乗っていた気がする。平日とはいえ年末も近いことだし……と席の有無が心配だったが、杞憂に終わった。先頭の7号車には10名も乗っていなかったのだ。
「向こうの山、きれいだね~」
つい1~2時間ほど前に見たばかりの雪景色が流れていく。白鳥さんもいるかな?と、相棒と一緒に探す。
お気に入りの車両から見るそれはいっそう美しい。電子の4打音や「ひたちチャイム」がここでも流れるが、不思議と違和感はなかった。昨2020年の1月に「しらゆき」に初めて乗った時、車内チャイムは何を流すのだろう?と思ったら、常磐線で流れているアレだったので驚いた。
いなほ号の終着駅は新潟。新発田から白新線に分岐し、新津へは行かない。
新幹線乗り換えの利便性を図るためか、新潟駅は5番線ホームがすっかり定位置となった。改札を挟んだ向こうに待機していたE7系のもとへ、大半の乗客が走っていく。スムーズな乗り換えを促す放送が聞こえてくるが、今日は関係ないので無視。のんびりと記念撮影した。
「楽しかった~」
この後はジュンク堂書店で本を買い、新津行きの各駅停車に乗り込んだ。
昼食と書籍の購入が目的な旅にしては少々時間がかかったが、まあ僕も魚も幸せなのでOKだ。見開いたままの目と口の奥にスマイルが弾ける。……えっ幻覚?そんなはずはない。
4.後書(今回のメモリー)
【新津~新発田~村上~新潟】17駅。所々抜けはあるけど是非やってみてほしい。なお単純な運賃としては、
・新津~村上※新発田経由 990円
・村上~新潟 1170円(自由席特急券なら+950円)
・新潟~新津 330円
である。
ちなみに真面目に乗り換え(?)ても、新潟14:25発の新津行き*5に乗れば、新津着は14:46。これ17時半からのシフトだったら余裕だったな……と、思いもしないところで前職の後悔を一つ増やしてしまうのだった。