むしょくとうめいのらくがき

鉄道と酒と野球ではしゃぐ4歳魚と26歳児の気ままな放浪記とか落書き 

【マロが行く】白昼夢は単線上の逃避行ごっこ -越後線・弥彦線・信越本線

 平日の正午、帰路に就いて改札を抜け、4番線ホームの電車に乗り込んだ。E129系が、高架ホームを白山へ向けて走り出す。

 

 

 

1.新潟(12:24発)→吉田(13:24着)/越後線

 

「どこへ行くの」と言われても

 修了して数週間経ったタイミングだが、用事があって訓練校を訪問した。その帰り道である。 平日の正午でも、これ以上の予定が無ければ帰宅するだけだ。新潟駅の改札をくぐり、4番線に向かう。ちょうど対岸に停まっていた、いなほの写真を暇潰しに撮るのも慣れたものだ。

E129系越後線吉田行き㊨E653系いなほ5号 -新潟駅

 そして何の疑いもなく、停車中のE129系に乗り込んだ。相棒が何か慌てて叫んでいるが、誰にもその声は届かない。数分後、電車は高架ホームをゆっくりと滑り降り、白山へ向けて走り出した。

「マスコロ、さっき何であんなに慌てていたの?」

「今でも慌ててるよ」

 何を言っているのだろう。確かにいい加減な兄貴のせいで何かと気苦労を強いているが、僕らは単に電車に乗って、家に帰ろうとしているだけだ。……いいや、正確にはこうである。

「反対方面に乗っちゃったよ」

 信濃川に架かる鉄橋に差し掛かると、電車はスピードを落とす。鉄の音が重みを増す。五頭連峰が小さくなっていき、やがて車窓右手・西側には、弥彦の山がその影・輪郭をはっきりと主張し始める。

 越後線は西へと進む。家が遠くなる。僕はどこへ向かっているのだろうか。

住宅街の隙間から、田園のど真ん中へ

 白山~内野くらいまでは、家と家、路地と路地の隙間を縫うようにレールが敷かれている。利用者数も多く本数もそれなりに確保されているようで、内野で運転を終え引き返す列車も存在する。かつて複線化に向けた運動もあったような記憶があるが、現時点では新潟~白山間の途中で新駅の設置に合意したこと*1くらいしか情報がない。

 内野西が丘を過ぎると、風景は一転、田園のど真ん中を走るようになる。水が張られ、初夏の装いとなった水田の真ん中を、一本の線路の上をただ走る。

 やがて電車は再び住宅街へ足を踏み入れた。弥彦線の線路と合流すると、間もなく終点だ。

 吉田駅は4方向・2路線の交差する駅で、大半の列車の始発・終着駅である。地元の高校生がそこそこの数下りていった。一度は終点になるといっても、この電車はすぐに弥彦線東三条行きとなるらしい。

 ただ、終点だ、と言われたからには何となく下りないと気が済まなかった。一度ホームに下りて長閑な空気を吸った後、自分以外に2人だけを乗せた先頭車両へと移動した。

 

2.吉田(13:32発)→東三条(13:51着)/弥彦線

 

図鑑をもっと読んでおけばよかったなと

 弥彦線はその名の通り、弥彦山弥彦神社の玄関口である弥彦駅へと通じる路線である。

 ところで僕も永遠に誤解し続けているのだが、この路線は東三条を起点としている。これまで乗ってきた越後線は新潟~柏崎を海沿いにまわる路線で、弥彦線東三条~弥彦を結んでいる。この2線が吉田駅で交差しているわけだが、どの方面から来ても多くの列車は吉田止まりだったりするので混乱が生じてしまう(※たぶん私だけです)。

 列車はやはり単線を行く。この路線は架線がJRとしては数少ない「直接吊架(ちょうか)式」を採用しているとのことで、確かに言われてみれば架線の様子が他と違うよなあ、とは思う。

「8歳の宇宙飛行士候補」のニュースを見て考えるあれこれ

 いつだったかにTVで「8歳にして宇宙飛行士に応募した」男の子が取り上げられて、宇宙関連の図鑑や宇宙開発の問題、難しい数式まで頭に入れていて、すごいなあ、と感心したことをふと思い出した。

 今考えると、少年時代にそうやって宇宙なり科学なり、あるいは鉄道でもなんでも、興味・関心を持ったことについて徹底的に学び、深めることは人生の大きな財産だよな、と思う。少年時代持っていた鉄道図鑑を、もっと深く学んでおくべきだったな、ということも後悔の一つとしてはある。身に付いた知識としたらせいぜい<クモハE129>が何を意味するか*2、くらいなもんだ。

 ただ、8歳の男の子の特集を見て思ったのは、そういう少年時代の取り組みに限ったことではない。あれこれと異なるフィールドに首や足を突っ込んでみたが、さて僕は結局いったい何をやりたいんだろう?みたいな、至極単純且つもっと幼い思考であった。

 ……ん?逆かもしれない。

 かつて電車が好きだったから、ひたすら図鑑を読んだり電車を見に行って喜んでいた少年が、急にあれこれと考えるようになってしまった。それ自体は自然の流れだったし、好きなものがわりと多いだけだ、と考えれば、むしろ良いことなのである。興味のあるフィールドは沢山あって、つねに視野を広く持つ、というのは大事だ。……ただ、新たに沸いた興味にどれだけの熱意を注げるか?っていうのが、特に就職ってなると問題になってくるのかもしれない。

結局降りないまま、三条へ着く

 なんてことを考えているうちに、新幹線と交差する燕三条に着く。新幹線の駅だけあって規模は大きく、ホームの裏にイオンモールが建っているのも見える。国道8号に、高速道路の三条燕ICもある。

 新幹線の高架の下に隠れるように設けられた、一面一線の島式ホームを、キャリーケースを抱えた人が歩いていく。

 なんかここで降りても良い気がする。だが結局、僕はそうしなかった。全線が単線の弥彦線も、ここからは信濃川を渡ると、三条市街の上を高架橋で進んでいく。

東三条駅0番線ホーム

 終点の東三条に到着だ。

 よくわからない遠回りの旅、何故か背を向けたはずの家路が、気が付くと正面に見えている。それが、何故かとても滑稽に感じられるのであった。普通に草。ひたすらに草。どこまでも草。草は生えるよどこまでも。草。

 

3.東三条(14:05発)→新津(14:34着)/信越本線

 

0番線は浪漫

 東三条駅のホームは4つ。島式ホームの2・3番線=信越線上り方面、単式ホームの1番線=信越線下り方面、そして1番線ホームを一部切り欠きにして、柵と車止めを設けた0番線=弥彦線。3方面2路線が交わり、特急しらゆき号も全列車が停車する。

0番線ホームっていう響きが好き

 白新線新発田駅にも同じく車止めを設けた「0番線」がある。

 東三条駅の場合、弥彦線の定期旅客列車は朝の一本を除き0番線から発車し、また信越線の列車は0番線に乗り入れない。このことが、どこか「行先または種別が異なる電車のためのホーム」であり、起点・終点であることの強調にも感じられる。

東三条駅弥彦線時刻表(2022年5月現在)

 この先に線路は続かない。降りてみれば確認できる事実を、わざわざ頑丈な車止めでもって「終点」を示す0番線に、僕はどうもある種の「異質」さを感じるのだ。線路は続かないよ、ここまでだよ―。

「童謡に現実を突き付ける、終着駅の浪漫。いいねえ……」

「……本当に今日大丈夫?」

 3歳魚に心配される。そんなに狂った目をしているだろうか。

 弥彦線は14時台発の電車がないことを見ると、ここまで乗ってきたE129系はしばらくここに置いておくのだろう。

 ありがとうE129。新潟を出て、吉田で列車番号を変えて再度運んでくれた列車とここでお別れとなる。御礼を告げて、下り方面の信越線を待つことにした。即、3歳からのツッコミが入る。

「次もE129じゃん」

 数分後、0番線に留置されているものと全く同じ顔・色をした電車が、長すぎる1番線ホームに滑り込んできた。

どこへでも行ける錯覚

 中3の夏を思い出した。あの時もやはり新潟で用事が済んで、まっすぐ帰りたくなくて、片道20分の道のりを2時間かけて帰ったものだ。野球を引退して、勉強なんかやる気にもならず、学校でも家でも落ち着く場所なんかなかったとき、電車に乗っていて、ためしに違う方面に乗ってみたらいいではないか、と思った。

 振り返れば、ああやって時間を稼いだりするうちに、ひょっとしたらどこでも行けるんじゃないか、みたいに錯覚するのは楽しかったんだと思う。だが、ぐるりとまわってきたところで結局は地元で降ろされる、というか自分から降りてしまう……というところが、何とも滑稽で、何とも情けなくて、何とも間抜けなのであった。

 あの頃みたいに心は荒れていないつもりだけど、することがないといって時間を潰すふりをする、みたいな点では、大して成長していないのかもしれない。信越線はいつもの反対側から新津駅に進入し、4番線に停車する。

「降りようか」

 ぴくん、と提燈だけが反応した。マスコロはもう眠そうである。

 

 改札を出る。どこにも行きたくないのではなく、むしろどこでも行きたいだけなのである。ただ、こだわりもないが勇気もないんじゃないか、と思ってしまったら、自分に何も言い返せなくなった。

 白黒を決めるのは、自分だけのことではない。だが、紛い物であっても目的に向かい、譲れないラインを定めないと、否応なしに彷徨い続けることになる―みたいなことを面談で言われて、確かにそうだよな、僕にそういうものはあったかな、と思うのだった。

 とりあえず今日は家路につこう。3歳の相棒を鞄に避難させて歩き出した僕は、結局そのあと一時間近く散歩することになった。

 

 

4.今回のメモリー(27駅)

 

 信越線・弥彦線越後線でぐるりとまわるコースです。よかったら挑戦してね。

新津~東三条~吉田~新潟(27駅)

 一部の駅は新幹線や高速バス車内からもアクセス可能だが、在来線のコンプをするのならどのみち乗る必要がある。東京方面からの旅程であれば、乗降を燕三条にして弥彦線に乗り換えるのが効率的だろう。吉田まで行ってしまえば矢作・弥彦はレーダーで取得するのも不可能ではないが、あの「THE・終着駅」感は一見に値すると思う。

 なお先述の通り、越後線内の新駅設置は決定事項であるから、MO新潟の手間を増やしたくない人は上所駅完成後の訪問が良いかもしれない……が、それを待っているとまた撤退・引退する車両も出てくるだろう。ケチらずに、何度でも再履修するのを推奨したい。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:「上所駅」設置が正式決定 | 新潟日報デジタルプラス (niigata-nippo.co.jp)

*2:その車両の属性とか特性みたいなのを説明する表記。ク=運転台、モ=モーター車、ハ=普通車、E129が車両形式。なお、EはJR東日本=Eastの頭文字であり、また車両形式の数字三桁の頭文字「1」は直流電車(1~3)であることを示している。