むしょくとうめいのらくがき

鉄道と酒と野球ではしゃぐ4歳魚と26歳児の気ままな放浪記とか落書き 

平野という檻と特権

 夜の農道には、ただ漆黒の闇と、僅かな星明りがあるだけであった。

 

 

 

1.壁と思い込み

 

 ある日先輩から誘われて、食事を共にしてきた。

 一見、よくある光景に見えるし、おそらく彼にとっては実際よくある光景なのだ。だが、「ちょっと今からご飯でもどう?」と誘う距離として、150kmを苦とするかどうかはわりと、かなり個人差があるだろう。……で、先輩にとってはなんてことなくて、庭みたいなものだった、という感じである。ちなみに流れとしては、

  1. 170km走ってきて僕にラインする
  2. 僕を迎えに来て150km走る
  3. 100km近く走って昼飯
  4. ドライブ→夕食→少なくとも100km以上走って帰宅

 であるから、

「You are so crazy.」

「Yes. Don't say lazy.」

 なんて会話になる*1。それはそうである。

 だが彼の感覚としては、水辺でバタバタと訓練することではなく、むしろ「たまの休憩」の方が近いのかもしれない。かつて互いに異郷の小さな町で歳月を共有した先輩に同乗して、見慣れた街や道を見る、というのは何とも不思議な気分……になるかと思ったが、それもそうでもなかった。こういう時は日本、というより世界が狭く感じるというより、県境や国境への実感が薄れるのだ。

 

 とはいえ、僕の感覚ではやはり日本はあまりに広い。というか、県内すら広い。

 いざ越後平野を目の前にすると、そこは遥かに広大で、どこまでも続いているように見える。存分に走り回ることが出来そうだが、一方で「どこまで行ってもこの平野を抜けられないのではないか?」とたまに思うことがある。実際には平野部から標高を上げて、丘越え・山越えをしたことも何度かあったわけだが、僕の感覚ではやはりそうなのだ。

 何年も住んでいるが故にそういう「この広大すぎる土地に閉じ込められている」という感覚に陥るのだろうか。特に夜は、ただ無限の闇が世界を覆いつくし、自然の呼吸も人の営みもその気配を消す。車のヘッドライトで浮かび上がるセンターラインと、路肩の反射材だけが道標となる。そこは広大すぎるが故に、「ここからどこへも行けない」という感覚を抱かせるようなものにもなっている。

 

 本当はいつでも抜け出せるはずで、実際に抜け出してまた飛び込んできた人を知っている。その日もふらっと三国峠を越えて、越後平野を突っ切ってきた車の助手席に乗った。日本海を見て、弥彦を背に夜の平野を突っ切ったあと、僕を降ろした車は再び峠を越えていったのだ。

 結論から言えばつまりフットワークなのだが、身体能力とか技術とかの意味ではなく「行動力」なのである。平野がどうとか自分の状況が云々、ではなく、ハンドルを切ってアクセルを踏むか、あるいは切符を買って乗り物に飛び乗るか。何キロ、何ヘクタールという障壁は、半分くらいは僕の思い込みで出来ているのだろう。

 それは中々に勿体ないなあ......と頭では分かっていながら、尚も広大な檻の中を這いずりまわっている僕である。

 

 

2.闇夜の中心でわりと好きな歌を叫ぶ

 

 ところで夜の農道とは走っていて実に気持ちが良い。たまに閉塞感を覚える、とか、ここから出られない、とか言うのは、良くも悪くも「ここにはほとんど誰もいないし声も届かない」ということなのだ。家も無く、歩行者もおらず、前にも後ろにも車はほとんどいない。

 前の職場は田んぼのど真ん中にぽつんとあるような施設だったから、遅番終了後、徒歩の時はveltpunchクライマーズハイを熱唱しながら帰り、車通勤になってからは窓を全開にしてやはり歌い、遮るものの無い道を(良識の範囲内で)飛ばすのが楽しみであった。

 いくら主張しても、向こうに小さく見える家や店の灯りまで、この声が届くことはない―そういうときは「ああなんだ、ここも悪くないや」と感じるものだ。かつて暮らした山間の町では、それができなかった。いや、実際はこちらでも誰かに聞かれていたのだとしたらすごく嫌であるし、とても申し訳ないのだが......。

 

 新しい勤め先への経路も、遮るものの無い田んぼ道を突っ切るルートであり、また遅番もある。それだけでも最近、少し楽しみが増えた。これは田舎特権だろうか。だが、そんな話を前述の車内で先輩にしたら、

「東京の街中でも夜に大声で歌いながら歩いてるやついるよ」

 それもまたcrazyであるが、こちらの場合はどうだろう。いろんなものを放棄している、という意味で「He(She?) is lazy.」と言いたいところである。

 

 

3.おまけ(ギャラリー)

 

山河と平野有り

十日町の美人林

龍ヶ窪の名水(津南町

日没の日本海(米山・青海川

日没の日本海その2

「麺日和そらや」さんで昼食

「よね蔵吉田店」さんで夕食 先輩は定食2つペロリと平らげてました

 

 若さっていうか「若々しく生きること」を実践していきたいと思いました。(←突然どうしたん)

 

 

 

 

*1:なっていません。