むしょくとうめいのらくがき

鉄道と酒と野球ではしゃぐ4歳魚と26歳児の気ままな放浪記とか落書き 

真の全員野球とは

 今年はあえて「ベストを尽くした」とは受け止めないことにしている。

 

 

 

1.「執念」も「挑戦」も「超積極的」も、最後は……

 

 先日CSファイナルで王者・ヤクルトに完敗し、2022年の戦いを終えた阪神タイガースのことである。

score.hanshintigers.jp

 

 キャンプインと同時に「今季限りで監督退任」が発表されるという、どう受け止めて見守ればいいのか分からないまま開幕したシーズンは、いきなり9連敗。いずれも中盤までの接戦orリードの展開を活かしきれず、勝ち戦をひっくり返されるという逆ミラクルな負け方を繰り返したように映った。かといって、序盤に1点でもリードされたらそれが決勝点になる試合も多かったように思う。よくぞ最大16の借金を一時完済し、Aクラスに浮上、崩壊したチームをなんとか形にし、あろうことかCS1stステージを突破した……と思う。

 矢野阪神の象徴は、そういった「ミラクル」というに相応しい展開ではないか。

 2019年で最終盤6連勝でCSを決め、CSでは6点差を逆転したのは記憶に新しい。負けていても最後の一球まであきらめない、凡打でも全力疾走する―矢野燿大が選手に説き続けてきたという信念は、僕も退任会見で聞いた時、それを実行する若虎達の姿を脳裏に浮かべることができた。それは単なるミラクルというより、情熱―それこそ前任・金本知憲とともに説いた「執念」によるものかもしれない。強い相手に「挑」み、一球への強い「執念」で、常に攻める姿勢と明るさ・熱さを失わず、ミラクルを起こしてきた。

 

 それだけに、今季は先のヤクルト戦に限らず、そういった執念や熱量を感じることができなかった。申し訳ないが、僕にはそう映ってしまった。何事も無かったかのように、ただ淡々と、策も無く、1球が終わり、1アウトが重なり、1イニングが過ぎていった。  

 悪い書き方をすれば、ある意味これも「集大成」であろうか。ポジションを固定せずにエラーを連発し、拙攻を繰り返し、僅差に届かずに負ける。……寂しいシーズンの、寂しい負け方である。何より、この矢野政権を引っ張って戦ってきたはずのエースを、あっさりと見殺しにした最終戦であった。

 

孤独に戦ったエース・青柳

 

「矢野阪神」の顔、そしてNPBを代表する投手へ

 CSファイナルの三戦目、既にヤクルトがアドバンテージ含む3勝で王手をかけた試合のマウンドに、青柳晃洋が上がる。前任の金本政権時代から起用され、矢野政権発足とともにローテの中心ピッチャーに抜擢された青柳は、今年13勝4敗、防御率2.05、勝率.765の成績で「最多勝」「最優秀防御率」「最高勝率」の三冠に輝くエースとなった*1

 一時は開幕投手の座を掴むほどになり、中日・大野雄大と死闘を演じ*2、終わってみれば三冠を手にした若き絶対的エース。彼も矢野阪神を象徴するひとりであり、指揮官の思い入れも強かった……はずである。

 青柳はその日も王者相手に一歩も引かない投球を披露した。快投、と言ってよかった。それが7回である。2死からピンチを招き、ヤクルトの1番・塩見を迎えた。やはり一歩も引かず、丁寧且つ強気に攻めて追い込んだが、ラストボールが外へ大きく外れ歩かせてしまった。

 

あっさりと進行した7回裏

 エースの勝負球が大きく外れた。相手に流れが傾きかける。しかし、だからといってエースを代えるわけにはいかない。……「青柳を信じている」「青柳がエースなんだ。勝負して来い」「青柳に任せた」、そう声をかけに行くには、これ以上ないタイミングだったはずである。

 

 投手という生き物のは気難しくて、そういう「間」を嫌うものもいると聞く。だが、少なくともマウンド上の青柳はあのとき物凄く、どうしようもなく「孤独」だったはずだ。監督はおろか、ピッチングコーチもマウンドに来ない。あれれ、タイムすらかかっていない?……中継を見ただけではわからなかったが、野手がマウンドに集まるような様子もない。ただあっさりと、淡々と、この回は進行していったのだ。

 マウンドに立つのは確かに、常に一人である。だが、バックがいて捕手がいて、ベンチが信じてくれているという安心感は、何にも代えがたいものがあるのではないか。ましてや、あの大舞台で、緊迫した展開で、自らを抜擢し信じてくれた指揮官が来てくれたなら―勿論どうなったかは分からない。だが結果だけ言えば、2死満塁とされた青柳は次の巧打者・山崎を丁寧に攻めながらも「上手くファーストへ打たれて2点を失った」*3

 孤独なまま戦い、リードしたままマウンドを降ろされた青柳。その後、信頼するリリーフ・浜地真澄も満塁で相手の主砲・村上を迎える。やはり矢野政権で絶対的な存在に成長した浜地に対し、「一押し」をかけるには十分すぎるタイミングだったはずだ。……何事も無かったかのようにプレーは続行。浜地は村上に渾身の直球を投げ続けたが、最後は「意表を突かれる技ありの一打で3点を失った」*4

 

「流れ」に流されないための「間」

「流れ」は野球において、やはりあるのだと実感する。

 制球が大きく乱れる。打ち取った内野ゴロ2つで5点も入る。つくづく野球は怖いスポーツだが、不思議と見慣れた光景に僕は実家のような安心感を覚えた。だが、守備のことは差し引いても、どこかあっさりと、淡々と進行し、気が付いたら逆転されていた7回裏のシーンは、どうにもやりきれない思いである。

 だからといって「ピンチでは間が大切なのだ」などと説法をするつもりはない。そんなことは周知の事実であり、言われても「何を今更」という感じである。だが、実際に分かっていた者がどれだけあの瞬間にグラウンドにいただろうか。「負けたら終わる」一戦でエースが投げている7回裏のピンチ……という認識を、果たして誰かが持っていただろうか?

「お前で打たれたって文句はない」

「お前に任せるから、思い切って攻めて来い」

 こういう言葉で、あと一押しをかけた首脳陣はいただろうか?

「次の山崎はここまでタイミング合ってない*5よな」

「スライダーが不安定だけど、威力の残っている直球で勝負していこう」

「満塁だけど2アウトだから、落ち着いて近い塁でアウトにしよう」

 こういう言葉で、冷静に現状を把握していた者はいただろうか?

「俺が捕ってやる!」

「打たれても取り返してやる!」

「全員で抑えて帰ろうぜ!」

 こういう言葉を、あのグラウンドで青柳にかけた者は果たしていたのだろうか?

 

 CSファイナルは、特にあの7回裏は、ヤクルトに流れがあった。というより、これでは阪神が「流された」に過ぎない。残念なことだが、2022年のタイガースはまさに「流されるまま」*6なゲームが多かった。

 

 

2.「俺達の野球」とは

 

選手とともに、ファンとともに―そんな矢野阪神が好きだった

 CS1stの横浜DeNA戦、第3戦目の9裏で見せたような、湯浅京己のもとへピンチで駆け寄り声をかけた指揮官と、それに「アツアツな」投球で応えて見せた新守護神―ああいう選手の背中を押し、選手とともに戦い、ともに喜ぶ矢野監督が好きだった。それに応えて常に攻め、挑み、執念を燃やす選手たちが好きだった。

 何も「劇場だ」「併殺だ」「美しい!」とかいうから観ているのではない。むしろああいう「ぶち破れ!オレがヤル」を体現する姿に「芸術点」を感じていた。

 

全員野球=「9人総バント」にあらず

 だからこそ、その集大成を期待したこのCSファイナルステージの結果を、「ベストを尽くした」と振り返ることは、はっきり言ってとてもできない。

 なんとか先制を、1点を!と言ってバントを選択することと、主砲候補に「決める」役割を与えないことは違う。佐藤輝明なら、無死1・2塁という得点圏で本来求められるのは打点=走者を返すこと、つまり「決める」ことではないのか。

 全員野球とは「9人総バント」ではない。また「9人総セカンド」でもない。得点機でランナーを返すのが大山や佐藤の役割なはずだし、守備位置だって右翼→左翼→一塁と転々とさせられるのもたまったものではない。各々が組織において自分のやるべきことをわかっていて、きっちりと果たすことこそ「全員野球」ではないのか。

 仮に打てなくても、試合に出られなくても、腐ることなくベンチで鼓舞する者もかつてはいた。そういう各々が自身の居場所を確立しながら、チームとしての目標実現の為の1%に懸ける―それが矢野阪神だったと思っていた。

 違うのか。「俺達の野球」は、そうではなかったのか?2019年の最終盤に見えたような、そういった執念も、明るさも、今年は感じる機会が少なかった。

 

スタンドにいるであろう阪神ファンの一般男性とともに

 故に選手たちは死ぬほど悔しいはずであり、きっとその悔しさを来季以降にぶつけてくれるはずだ。守備練習は基礎からやり直すことになりそうだが、どこかで「ヤノの教え」が実を結ぶことを、ファンとしては切に願っている。

 その時は……あれこれと書いてしまって申し訳ないが、これで晴れて「阪神ファン」となった明るいおじさんの、渾身の「矢野ガッツ」を見れたら良い。ベテラン頼みだったチームから生え抜きの主力が成長し、次の塁を果敢に狙う機動力と、安定した投手力を確立させたのは、この政権の何よりの功績であろう。

 

 正式に報道された次期監督の人事については、素直に楽しみである。

 TL上では何やら懸念の声が上がっている*7が、「勝ったら、なんぼでも笑ったらええよ」って言っているし別に良いのではないか?勝っても不機嫌な監督だったら勿論嫌だし、雰囲気は軍隊ではなくあくまでもスポーツチームでいて欲しいところだが……それは始まれば分かる。

 

 末筆ながら、心から矢野燿大監督への「お疲れさまでした」を申し上げたい。

 

 

 

 

 

 

 

*1:個人成績 - プロ野球 - スポーツナビ

*2:一軍試合速報|試合情報|阪神タイガース公式サイト

*3:記録はファースト・マルテの送球エラー。

*4:記録はピッチャーへのタイムリー内野安打と、ピッチャー・浜地の送球エラー。1点はおろか、走者一掃になるのがミラクルである。

*5:この日は①空三振②空三振③二ゴロ④一ゴロ失+2点

*6:ビッグウェーブなだけに……。

*7:大半が「虎メダル」の廃止についての意見かと思われる。ちなみに僕は「監督が試合中にかけるのは違うだろ」と、あんまり動かないベンチを見て思っていました。