むしょくとうめいのらくがき

鉄道と酒と野球ではしゃぐ4歳魚と26歳児の気ままな放浪記とか落書き 

「攻めた結果」の正しい用法

 夜が長くなってきた。

 

 

 

 仕事で津川へ行く機会が増えたのだが、同時にこの郷の「秋」を余計に感じるような二、三週間ほどを過ごした。まだ焼け始めたばかりの東の空へとのぼり、余韻を残して消えた西日を追いかけ、平野に下りるころにはすっかり辺りは闇へと溶ける。

 着々とその傾向はあったのだ。なんなら夏至なんて何カ月も前の話*1で、あれほど暑い暑いと言うだけで脳味噌ごと溶けていた七、八月から、既に日照時間は短くなっていたのである。にもかかわらず、週単位で、ガクッ、と冷え込むように感じるのは、まさに「気のせい」だろう。

 特に、何らかの形で「アツい」数カ月を過ごしてきたものたちにとって、これからは所謂”シーズンオフ”なのである。

 

 

1.やきうのおわり

 

 2022年プロ野球の覇者はオリックスバファローズ

 昨年同様、レギュラーシーズン・ポストシーズン共に息詰まる接戦を勝ち切り、逆境を跳ね返し、最後には昨年あと一歩及ばなかった相手に雪辱を果たした。だが、昨年同様の大接戦を演じたことで、改めてヤクルトの強さを思い知らされるようなシリーズでもあった。

 

紙一重……このカードは「伝説の一戦」なのでは

 今シリーズは、オリックスの投手陣―変幻自在な先発陣と、ブルペンに控えるパワーピッチャーの好投が光った。特に、シリーズ前半にタイミングのあっていたヤクルトの打者に、後半ではスイングをさせなかったといえる。

 大不振に陥っていた山田哲人はともかく、主砲・村上宗隆や、代打で登場した川端慎吾青木宣親も、第7戦でいえば自分のスイングが出来ていたとは言い難い。これらは投手陣の力だけではなく、バッテリーやコーチ陣も含めた対策・反省によるものとも思われる。

 

A.ストレートに反応できなかったヤクルト・川端のバット

 その話で言えば、第7戦のヤクルトー特に一球も振らず三振に倒れた川端は気がかりであった。5回裏、一死から四球と安打で1・3塁のチャンスを作り、投手の大西に変えての打席。ヤクルトとすれば、5点という少々重いビハインドを背負っただけに、点数以上の空気を引き寄せたい場面であった。

 ところが、オリックス先発の左腕・宮城大弥に対し、2-2と追い込まれると、5球目の内角低め145キロのストレートで見逃し三振。あれは「見る」に徹していたのか、打つボールがなかったという判断か、はたまた手が出なかったのか……。判定には不服そうな表情を見るに、低めに外れたと思ったのかもしれない。

 ただ、この打席で川端に対し、宮城ー伏見のバッテリーはいずれもストライクを142~146キロのストレートで取っている。変化球は100キロ台のカーブと、135キロのスライダーをいずれも外角にはずし、直球、変化球、直球……と交互に投げる配球だった。宮城をはじめオリックス投手陣の、変化球でもスピードを変える投球術は見事だった。しかし、結果的には川端が「ゾーンのストレートを簡単に見送ってしまった」と映るのである。

 打者はよく「打ちに行って見逃せ」と言われる。これは「打席の中ではスイングをしていかないと、タイミングが合わない」という根拠なのだが、逆にヒットではなく四死球を狙っていたとしても、同様に大切なことではないだろうか。

 特に先日の宮城のようにストレートが走っていると、ゾーンに来た時にカットすらできなくなる。ボール球が来ると読んでいて、「見送る」と決めての見送りでも同じだ。常にスイングをかけて「タイミングを合わせる」ことをしていかないと、「ゾーンに来た!打とう!」と思ってもバットは面白いように止まる*2。もしくは振り遅れて、中途半端になる。

 川端へのラストボールとて、いつもの彼なら三塁方向へのファウルで逃げられたはずだ。確かに一打席でタイミングを合わせるというのはなかなかできず、まして得点圏でそう甘いボールは来ないから、代打というのは難しい仕事である。だからこそ、「打ちに行って見送る」「初球からスイングしていく」というのが大事なことなのだ……というのが、あの川端の打席、あるいはこのシリーズには集約されていたと思う。

 

B.同じ球種でも緩急を

 しかし、両軍ともにピッチャーの精度の高さは光った。

 先述したように、宮城は直球の走りもさることながら、それをより「速く見せる」ことができる投手でもあると思う。フォーム、回転数、良いコースに決まることもそうだが、カーブやスライダー、チェンジアップといった球種と組み合わせることで、ストレートとの数字以上の緩急によって、ヤクルト打線を翻弄した。

 例えば同じ横の変化球でも、100キロ台のカーブと、120~130キロのスライダーを投げ分けられると、打者としてはタイミングが狂う。コースとしても、ストライクを取りに行くのか、空振りを誘うのか?色々なパターンを持っていた。

 変化球でも必ずしも同じ投げ方をすることはなく、変化量・方向・球速を変えて投げ分けることが出来ると、投球の幅はとても広がる。チェンジアップという球種は特に、握り方をあれこれ変えて、フォークのようにしっかりと落としたり、変化させずにスピードだけを抑えたり、あるいは左バッターにはシンカー気味の変化を付けたりと、幅広い使い方がある*3

 他にも第7戦の8回にリリーフしたベテラン・比嘉幹貴も、6番中村悠平にはすべて変化球で空振り三振、サンタナには145キロのストレートと130キロ台のスライダーを投げ分け、最後はストレートで投ゴロに打ち取った。1点差と迫られて、球場の空気が一変した状況で、100キロ前後のスローカーブでストライクが取れるのか……と感心した。

 ヤクルトの投手陣も、精度に間違いのない投球を披露した者ばかりだった。第7戦でも5回から継投した救援陣(大西広樹、田口麗斗、石山泰稚、清水昇)は得点を許していない。序盤の劣勢から反撃~逆転ムードを終盤に呼び込めるのは、救援陣の安定あってこそ。それは開幕戦が示すとおりである。

 

 C.結果的には「バント」が明暗を分けたけど →太田のバントは素晴らしい&バントシフトは正解

 ヤクルトの風向きがおかしくなったのは、弱い当たりの内野ゴローとりわけ「送りバント」にあったのも確かである。

 第5戦の最終回、同点を呼んだのは、西野真弘のボテボテのピッチャーゴロだった(記録は内野安打+投手のエラー)。スコット・マクガフは第6戦でも同じような送球エラーを犯してしまう。マクガフについては完全なミスであるが、本人が今後のプレーに悪いイメージを引きずらないことを祈るばかりである。

 さて、第7戦でもヤクルトの悪夢は終わらなかった―とはいえ、あの宮城&太田椋の送りバントをめぐるヤクルトの内野に関しては、「仕方なかった」と言いたい。あれこそ「攻めた結果」の正しい使用例であると、僕は考える。

 強いて言うのなら、無死一塁からの宮城の送りバントは、決して二塁封殺を焦る場面ではない。進塁を許すにせよ、言ってしまえば「安全に一個アウトを取れる可能性が高い」場面だったからである。これが安達了一や福田周平だと話は変わってくるのだが、オリックス側としたら「バスター」はちょっと仕掛けづらい。通常のヒッティングというのも可能性はきわめて低いだろう。四球狙いで待ちに徹するか、本当に何もしないか、バントで送るのか。どれかである。

 近年では一概に言えなくなってきているが、投手のフィールディングも考えておくべきである。助っ人外国人は苦手としているケースが多いから、二塁封殺を狙うなら確かにサード・村上が捕りに来たのは正しかったとも言える。ただし、チャージをかけすぎて結果は村上とサイスニードの間を抜けていった。

 無死一、二塁での太田ではどうか。進塁させたくないなら、なんとか小フライにしたかったところである。したがって高めの速球やシュート、ツーシームなどは候補にあがるけれど、どのみち太田が上手くて転がってしまったので仕方ないだろう。それも太田は「三塁線に」転がした。右打者の太田にとって、無死一、二塁から三塁線に転がせるのは、いくらセオリーと言えなかなかできることではないのだ。

 だが、守備シフトとして三塁封殺の指示が出ているなら、村上はむしろ「捕りに来ては絶対にいけない」。サードベースカバーに誰かが入っていなければアウトは取れない。レフトやショートを向かわせる、という考えもなくはないが、二塁牽制に対するベースカバーが疎かになること、またヒッティング(バスター)等外野に転がる危険性から、対策としてはとりづらい。

 

頂上決戦として相応しい戦い

 以上のことから、バントに関しては「攻めた結果」が裏目に出たに過ぎなかったといえる。第5戦の実況にあったとおり、野球の神様は最後まで勝者を迷った結果、オリックスに味方しただけなのである。

 まあ反論として、例えば太田椋(無死一、二塁)のケースに関し「三塁封殺を焦らず、村上が処理して一塁アウトを取りに行けばよかったのだ」という声もありそうで、それも正しい。仮にこれらを「ミス」と断じるのなら、それは内野手だけでなく、ベンチも含めたチームの作戦に対して問うべきなのだと思う。

 しかし、何度も言うように、選手・首脳陣ともにヤクルトはベストを尽くし、最後の一球まで分からない試合を戦った。8回裏のチャンスで、打ち気に逸る場面で、山崎颯一郎のスライダーを完璧に捉えたホセ・オスナの3ランは見事としかいえなかったし、そのオスナは9回にも好守でチームを救った。

 随所に両チームの強さを感じ、同時に彼らの意地がぶつかり合う、素晴らしいゲームであった。まさに頂上決戦といえる面白いシリーズだっただけに、終わったあとに来る「一気に冷えていく」感じに耐えられないのではないか。なんでも、他球団では球界のエンタメ番長・杉谷拳士が、次のステージへ「前進」しグラウンドを去るという。寂しくなりそうである。

 

 

2.おまけ

 

 なんてこと言ってたら日本シリーズ終了から一週間近く経過してた。快晴になったかと思えば、雨がドワーっと降ってきたりして忙しい。まるで僕の勤務シフトのように不安定な天候と、最近意味不明なだけでなく「道理が通っていない」扱いに苛立ってはどんどん鈍っていく脳味噌を嘆きながら、ビールを空けて筆を置くことにする。まあ、すぐに「今週分」を書かないといけないのだが……。

 

 

 

 

 

*1:2022年は6月21日。

*2:隙自語:少年野球時代、ある大会で「1~5番は初球から振ってOK!6~9番は必ず1球待て!」という指示を受けたことがある。6番だった僕は案の定無安打に終わったが、その大会は特に指導者責任を追及したい。

*3:握り方も多種多様で、一般的には指を「OK」の形にして握るのだが、人差し指と薬指で挟む、鷲掴みにする、等もある。