むしょくとうめいのらくがき

電車乗ってお酒飲んではしゃぐ3歳魚と25歳児 水曜日夜に更新 

余韻の残し方

 なるべく覚えておきたいのだが、すぐに忘れてしまう。

 

 

 

 

1.ラーメン屋

 

 ラーメンの話である。

 まあ基本的には「忘れっぽい」という自覚があって、そのくせ悪いことばかりは覚えているものだから、つまり何にでもあてはまるけれど。しかし、お腹を空かせて街を歩き、分岐とGoogleマップとにらめっこした末に暖簾を探し当て、勇気を出して扉を開けて、勇気を出して注文し、ようやくありついた至高の一杯を、である。これは実に悩みだ。

 具体的に言うと、店を出た瞬間に麺の食感を忘れる。太麺・細麺くらいはギリギリ覚えているけれど、スープと絡まって温まったそれらを、ずずっ、と啜った*1時の感触を、数分後に言語化しようとしても、できない。具に関しても同様だ。特に味付け玉子が好きなのだが、限りなく半熟に近くてスープによく馴染み味もついている……という理想的な状態であればあるほど、やっぱり忘れてしまう。逆に、ただのゆで卵が乗っかっているだけとか、嫌いな食材があったりすると、その食感は悪い余韻となって脳裏に残る。

この前食べたラーメン 品名の通り濃厚な煮干しのスープがうまい!

 基本的にラーメンは好きだ。好きな食べ物は?と訊かれたら、まあラーメンと答えている*2気はする。

 好みは?と訊かれても、あっさり醤油系も濃厚豚骨醤油も好きなので何とも言えない。ただ塩はともかく味噌はあまり好んでは食べないかもしれない。また麺はスープに入っている方が良い。あとは野菜等の具はそんなに多くない方が好き。

 書いていて、なんだかメッセ*3と好みが似ている気がする。なんだか嬉しい。

 

 この前は、新潟駅南から15分ほど歩き、とあるラーメン屋に入った。

 大通りをふらふらと歩いていると看板が見えてきて、気付くと吸い寄せられていた。ひと目で「ラーメン屋」だとわかる店はやはり入りやすい。入り口で食券を買って渡す。これは良い。「注文は券売機」というシステムは、味以外のこだわりとしてとても重要視している。コミュ障にとって、忙しない店内で声を上げて店員を呼ぶ、というのは至難の業である。

 しばらく経って、ほくほく、と湯気を立てて丼が運ばれてくる。香りがたまらない。黄身を、とろり、と出してこちらを見ている玉子と、汁の奥で温まっている麺の、この図がたまらない。

 煮干しのスープは品名の通り濃厚で、スープも「飲む」より「食べる」感覚に近いとすら思った。しかし美味い。味玉も期待通り(いやそれ以上)に口の中で蕩けてくれて、余分にトッピングを付けておいてよかったなあ、と思った。最後に残った塊のようなスープを、ぐいっ、と飲み干す。いやあ、満足!

 

 ……で、空になった器を見て、こんな会話になる。

「ところで最初、どんな見た目だったっけ」

「写真撮ったでしょう」

「どんな味だったっけ。インスタの食レポが……」

「いつも”美味い”しか書かない人が何言ってるの?」

 はい。

 

 あいつ食べ終わったかな、そろそろ空くかな、という視線を後ろに感じ、僕らは席を立ち、駅に向かって歩き出した。雨は上がったらしい。ところで手が妙に軽いな、と思ったら、傘を置いてきたようである。こんな余韻はいらない。

 まあ、味わいは何度か通ってようやく覚えるものかもしれない。比較的行きやすいのと、美味しかったという事実はしっかりと覚えているので、次は「王道」の煮干しも頼んでみようかなあと思うのだった。

 

 

2.温泉

 

 たまに温泉に行ったときなんかも、似たようなことをよく思う。

 温泉巡り!というほど巡ってはいないのだが、日帰り旅の目的地に組み込んだり、こちらに帰ってきてからは出勤前や後に行くことも多くなった。「一日のはじまり」に身体を温めるのにも、「一日の締め」に汗や疲れを流すのにも、温泉は最適である。マスコロを連れていくことはできないが、たまには僕も一人になりたい。それが叶うのが風呂である。

 

 この前は午前中仕事の後、夜から現場を移動しての勤務だったため、合間を利用して温泉施設に行ってきた。

聖籠町にある温泉施設「聖籠観音の湯 ざぶ~ん」

 脱衣所で準備を整えて、浴場に通ずる扉をガラリ、と開けると、換気扇なのかシャワーなのか湧き出す湯なのか、ともあれ色んな音が独特の響き方をしていて、湯気に覆われる五感が心地よい。

 滑る足元に気を付けて、丁寧に身体を流す。わりとシャワーの出は重要である。泡や髪の毛の付着が残っているといけないので、二度、三度と流す。

 さて、風呂である。まずは内湯。電光掲示に「41.7」と温度が示される湯は、塩化物強塩温泉*4という特徴のおかげか、より熱めに感じる。全身を沈め、はあ、と息を吐いてみると、しょっぱい香りが鼻をついた。

 ここには露天風呂もある。一旦外気に触れたいので行ってみよう。素肌には当然寒さを感じるが、庭先に見える木々は赤や黄に染まっていて、たまに荒れる空模様や、着々と訪れる冬に抵抗している。この寒い中で湯に浸かり、紅葉を見る。志摩リンの言う通り、これは究極のマッチポンプなのだ。

 露天を堪能したが、また身体が冷えるので再び内湯へ戻る。浴室に響く、轟々と何かが湧き出す音と、椅子や桶がひっくり返ったりする音を楽しみ、身体がほぐれ温まるのを感じたら、上がる。

風呂上りのコーヒー牛乳 これが幸福です

 風呂上がりに欠かせないものは、休憩とストレッチと水分。何故風呂の後のコーヒー牛乳はこんなに美味しいのだろうか。あとはしっかりと肘、肩や首まわり、腿裏などをほぐして、くつろいで帰る。ううむ、贅沢な休憩時間である。

 

 ……といきたいが、完全にリラックスすることは難しい。

 広間でどれだけ体をほぐしてもいまいち伸びている気がしなかったり、風呂でもなるべくこの余韻を残したいがためについ長湯してしまったり……ということはよくある。泉質によっては熱すぎて入っていられないケースもあり、少しぬるめ位が自分には丁度良い気がする。

 風呂には「ああ、疲れが取れて癒されていく~」という感覚があれば理想だ。でも実際はラーメンと同じで、その湯の感触だってあまり覚えてはいなかったりするものである。これも何度も通って、「ここに来れば毎回癒される」というような、日常の中の「OFF」の意味で習慣化すべきなのかもしれない。

 ちなみに風呂で蕩け切った僕が「よし、夜番の仕事も頑張ろう!」となるはずはなく、案の定ポカを繰り返し、家では放置された相棒・マスコロに噛みつかれることになった。

 

 

3.車窓

 

 余韻の云々としては、鉄道に乗った時も悩ましい問題が起こりうる。

 僕は車窓をほとんど覚えていない。というか、降りた瞬間に忘れる。

 

 多方面から「二度と鉄を名乗るな」という大バッシングを受けそうな一言である。しかし言い訳をする。いくら「鉄道好き」を自称しても、風景を一区間、一分一秒と把握することは困難を極めるのではないだろうか?カタン、コトンと優しいリズムで、川を渡り、山を仰ぎ見て、田園を走り抜けていくローカル線に乗っていると、こう……気付いたら……夢の中にいる……みたいなこと、ないだろうか。ないか……。

 特に、八高線飯山線を乗りとおすのに乗ったキハ110系のジョイント音は、僕を簡単に眠りに落とした。当時慢性的な不眠症を抱えていたにもかかわらず、どんな睡眠薬よりも聞き、どんな快眠用BGMよりも心地よく、どんな枕よりも合ったのである*5八高線の非電化区間には計三度乗ったことがあるけれど、そのいずれでも眠りに落ちた。だが寝過ごすことはなかった。心地よい昼寝の思い出である反面、車窓は何も思い出せない。

 名古屋から383系「しなの」、キハ85系「ひだ」に乗った時の車窓もほぼ記憶がない。しなのに乗った時はともかく、高山に行くのに「ひだ」に乗りたいがために深夜バスで名古屋まで向かい、7時台の「ひだ1号」で高山に向かったのだった。ちなみにきしめんを食べ、車内で駅弁も食べた。そら眠いわけである。おまけにあの、ふかふかの座席!「寝ろ」と言っているようなものではないか。

 まあ、383系は流石カーブでも飛ばすし、85の唸るエンジンと、まるで湖上を滑るかのような高山本線の車窓は、眠いなりによく覚えている。

 

 もっとも、身近にある(あった)路線は覚えるし、久しぶりに乗って再会を懐かしんだ……なんていう風景は記憶によく残るものだ。

 忘れられない車窓は、やはり大学1年の夏、最初の帰省で新潟駅に滑り込む寸前の車窓だろうか。無機質な背比べをするビル群の中に交じり、黄・橙・緑・青……と鮮やかなグラデーションの細長いタワー*6が立っている。少し窮屈だったが、高い2階席から見下ろした車窓―なんとなく、いまでも思い出されるのだ。

 

 

 思い出せなくなることが、これからどんどん増えていくのだろうか。まあ失いながら生きることも、それが人の性であり定めであるのかもしれない。

 ……ところで「余韻」の話だったのに、どこから「思い出」の話になったのだ。実は「余韻が云々」の段階、つまり「体験してすぐ」に忘れてしまう、ということなのだろうか。どの点を問題視するべきかわからない。だが少なくとも「本記事をどんなノリで書いたのかも、公開されるころには忘れている」ということは、あらゆる視点から改善策を講じるべきである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:啜るのが苦手な方がいらっしゃったらすみません。

*2:だが、先日職場で「自己紹介」を作成した時は、これを訊かれて「米」と答えた。間違ってはいない。

*3:阪神タイガースの投手、ランディ・メッセンジャー。大のラーメン好きで登板前には必ず食べていたらしい。「もやしを入れるとスープの味が変わってしまう気がする」等こだわりも強い。

*4:「聖籠観音の湯 ざぶ~ん」HPより。 →http://www.zaboon.co.jp/ofuro.htm

*5:そんなに試してないし、単に生活リズムが崩壊していただけという指摘もじゅうぶんに認められる。

*6:新潟市中央区に存在した「レインボータワー」。2012年に営業終了、2018年8月解体。