しばらく続いた小春日和も区切りを迎え、花を散らす風が吹き荒れている。
1.2023.4.15 土曜日
前の晩にいつものように血糖値の急変に振り回されて気絶し、意識を取り戻したときには午前四時になろうとしていた。眠った気はまるでせず、ただ深い泥沼の中にいたような心地悪さが、頭の鈍い痛みとなって残っている。
不快感を洗い流すべくシャワーを浴びる。前の日は何も清められなかった。浄化されて火照りを残したままの五感に、新聞配達のバイクの音と、明るくなり始める東の空が飛び込んでくる。
やはり微かに眠い。睡眠らしきものを取った気がしない。だが、まだ数時間は起きていられる気がした。夜と朝のあいだ、昨日と今日のはざま。その時間は、この日が土曜日であれば、少し長くなる。
天気が悪くなることは知っていたが、早朝の空はまだ「今にも泣きだしそう」という程度。いつもなら爆睡している時間帯の空気を、せっかくなので吸いたい。
ということで、
散歩に出る。
といっても時刻を見ると6時50分を過ぎていて、部活動へ向かう高校生なんかとすれ違ったりする。曇り空のせいもあるだろうか、今一つ「早朝」というには、昼間との差異を感じないような明るさだった。
イヤホンを外し、ブルサンとGVを見送る。いずれもそのモーター・エンジンの音は重厚で、構内列車接近を告げる警報音は朝でもけたたましく鳴り響いている。が、駅から離れると、あの音は何だかんだ聞こえないから、よくできている。いや、僕の耳が悪いだけだろうか。
しばらく朝の町を歩く。天気が悪いから、と少し厚着をしてきたが、少々やり過ぎたようだ。クソ暑い。相棒がいたら怒られているくだりだが、今朝はまだ寝ている。魚も蛙も夢の中で、何なら両親もまだ寝ている。
8時をまわったところで帰宅する。二時間前、朝飯の代わりに食べた菓子パンはもう消化されている。
10時半を過ぎて眠気がおこる。今度は「睡眠」ができるかと期待したが、そうでもなかった。泥沼に足を取られたように意識を落とし、2時間後に取り戻す。それを二度繰り返す。夜7時ごろ再び目を覚ますと、今夜は酒盛りをすると両親が張り切っている。起床後に終わる一日。食卓の中央に並ぶ、呑み比べセットと称する5本の瓶。酔いはしたが、案の定すぐには眠気がこなかった。
分厚い雲を見ると、知らない山間の村で新しい生活を始めたことを思い出す。もう7年も前のことになるか。時々霧のように零れ落ちてくるものが、程よく空気に潤いを与えていた。鳥のさえずりと木々の奏でる音に、安心感を覚えたものだ。
2.2023.4.16 日曜日
起きたら昼の1時半を過ぎている。朝に一切の活動をしていなかったが、何となく深夜の雨がずっと続いていたのだということは察知する。
ちょうどデーゲームが始まる時間だから、なんとも都合がいい。贔屓球団の試合を点ける。が、何事も起きずに負ける。シーズンは長いので仕方がない。元々打って勝つチームではないし、その割に今季は零封負けがないので、まあいいか、と思っておく。それに今日は、美しい本塁打と併殺打を見ることが出来た。良かった。そらもう満足よ、おーん。
夕食を食べた後、夜の散歩に出かける。気絶を回避するのには軽く運動するべし、というらしいので、買い物と気分転換も兼ねてたまに行っている。昨日は土曜日の御寝坊ゆったりな一日のはじまり、今日は日曜夜のもの寂しさ。同じ静けさでも、その中身は全然違う。
思えば、学生時代を過ごした山間の村でも印象に残っているのは、同じような風景だったかも知れない。始まらない一日、既に終わったような一日。建物や街灯だけが取り残されているようで、しかし実際には車や人と時々すれ違ったりはするし、店や自動販売機もその灯りを主張している。あちらは谷間に切り開かれた村だったのに対し、こちらは平野。全然違うはずの二つの町で、土曜日の早朝と日曜日の夜の、取り残されたような空気感に懐かしさを感じている。
……というようなことを、わりと何度も思い、何度か呟いている気がする。そういう「空白とか止まってるみたいな空気感」の中を、おそらくはこの先も取り残されたように、彷徨うように歩くだろう。そういうのが好きなので、仕方がない。
だが彷徨っても本分は果たす。散歩コースの最終盤に、口内洗浄液と住居用洗剤とヨーグルトの買い物を組み込んでいる。立ち寄ったドラッグストアは24時閉店だけど、暗闇の中に煌々と灯り続ける建物を見、商品やサービスの案内をする放送を聞くと、たくましいなあ、と感じる。
何だかんだ寝るのは午前3時になった。大袈裟な荷物しょって2分後に来たキミ君もびっくりである。夜散歩はよくしているが、何だかんだ日付が変わるまでには家に帰っている。なのにその後まだ起きているのだから、別に外を出歩いていてもあまり変わらないのではないか。
それこそフミキリ……とは言わず望遠鏡を担いで走り出す、みたいな思い切りのほうが良いのかもしれない。どうせ深い闇に吞まれることに抵抗はなく、まあ予報外れの雨は勘弁してほしいけれど、眠ってしまったらたぶん、返事はできない。あのくらいの思い切りが欲しい。今後の課題である。
3.おまけ(2023.4.17 月曜日)&お知らせ
次週分の更新は4月25日(火)19:00の予定です。
何かネタ等ください